ネットワークの構造的空隙効果対ステイタス効果

社会ネットワーク理論は、個人や組織が、自分にとって有利なネットワークを築くことによってさまざまなメリットや優位性が得られると示唆します。しかし、とりわけ市場経済のもとで活動する個人や組織にとって、いったいどのようなネットワークを構築するのが望ましいのでしょうか。


これに関して、Podolny(2000)は、市場経済において有利に働くネットワークの特徴を理解するための2つの考え方を示します。1つ目は、導管としてのネットワークです。これは、つながっていることで有用な資源や情報が得られるという意味です。ネットワークは、資源や情報が移動する導管であるというわけです。2つ目は、プリズムとしてのネットワークです。これは、対象となる個人や組織の実力やクオリティが明確でないときに、その個人や組織がどことつながっているかによって、その実力やクオリティが推し量られるということを意味しています。


ネットワークを導管としてとらえる場合の代表的な理論が、構造的空隙(structural holes)の理論です。自分とつながっている相手同士がつながっていない場合を、構造的空隙といいます。構造的空隙が多い場合、ネットワークが密でなく、さまざまなタイプの相手とつながるうえに、ネットワークが拡散していく傾向にあるため、多様な経路から、多様な情報を入手することができます。それがいろんな要素において自分を有利に導くというわけです。逆に、構造的空隙の少ない密なネットワークの中にいる場合は、ネットワークが閉じがちで、幅広い情報を入手しづらくなります。


ネットワークをプリズムととらえる場合の代表的な理論が、ステイタス理論です。この考え方によれば、自分のステイタスは、だれとつながっているかによって決まってきます。よって、構造的空隙の理論とは反対に、ステイタスの高いものとのみつながっていることが、自分の高いステイタスを維持するゆえに有利となると考えます。構造的空隙が多いネットワークの場合、ステイタスの低い相手とつながることにもなるため、自分のステイタスを阻害することになりかねません。


このように、構造的空隙理論とステイタス理論は、それぞれ異なるネットワーク構造が望ましいと説くわけですが、Podolnyは、市場を前提とする場合にどちらが望ましいのかは、その市場に存在する不確実性の種類と度合いに左右されると言います。ここで、不確実性の種類とは、「自分が不確実性に直面しているか(egocentric uncertainty)」「自分とつながって取引を行う相手が自分に対して不確実性に直面しているか(altercentric uncertainty)」の違いを指します。


Podonlyは、構造的空隙が有利に働くのは、自分が直面している不確実性が高い場合だと論じます。自分を取り囲む環境の不確実性が高い場合には、多様な情報を入手することが、不確実性を低減するのに役立つからです。いっぽう、自分が直面している不確実性が低い場合には、ステイタス効果のほうが高いと論じます。対手にとって自分の不確実性がない場合、自分の実力やクオリティは明確なので、つながりによって生じるステイタス効果はゼロになります。それ以外の場合は、相手が自分の実力やクオリティを推測してもらうことによって生じるステイタス効果が出てきます。一方、自分が直面している不確実性が低い場合には、構造的空隙のメリットが得られないうえ、構造的空隙がステイタスを低める要因となりうるためです。

文献

Podolny, J. M. 2001. Network as the pipes of the market. American Journal of Sociology, 107, 33-60.