経営戦略論におけるネットワーク的視点の重要性

経営戦略論において最も人気のあるフレームワークは、ポーターのポジショニング・モデルと、バーニーのリソース・ベースト・ビュー(Resource-based view)でしょう。ポジショニングモデルは、業界構造の中で自社がどこに位置取るかが、競争優位性を獲得するうえで決定的に重要だと説きます。リソース・ベースト・ビューは、企業の持続的競争優位性を決定づけるのは、企業が保有する、価値があり、希少であり、非模倣可能であり、非代替可能な資源だと論じます。


しかし、Gulati, Nohria, & Zaheer (2000)は、これら2つのフレームワークに代表される伝統的な経営戦略論は、企業が、独立かつ自律的な存在として、持続的競争優位を実現するための資源の獲得やポジショニングを模索するという前提に立っており、それは現実を反映していないと指摘します。その現実とは、「組織は、他のさまざまな組織とつながっており、自分を網の目のように取り囲むネットワークに埋め込まれた存在である」という事実です。このネットワーク視点を経営戦略論に導入することにより、これまでとは違う見かたで、企業の戦略的行動やその帰結が理解できると論じるのです。簡単にいうと、企業の戦略行動や業績は、その企業が他のどういった企業とつながっているかに影響されるということです。


例えば、組織を取り囲むネットワークは、密度の高いものであったり低いものであったり、つながりが強いものであったり弱いものであったり、さまざまです。ネットワーク構造によっては、そこに埋め込まれた組織の行動を強く制約することもあるでしょう。その場合、組織は自律的に戦略的行動をする存在とは言えないでしょう。また、持続的競争優位性の問題というのは、組織単体に独立して言えるものではなく、場合によっては、複数の組織がつながりあったネットワーク全体として言えることもあるでしょう。そもそも企業がアライアンスを組んだりするのは、自社のみが競争優位性を独占しようとしているわけではなく、企業同士が協調することによって、メリットを共有しようとする動機があるはずでしょう。


Gulatiらは「戦略的なネットワーク」というのは、そこに参加する組織が、さまざまな情報、資源、市場、技術を獲得することを助け、また、相互学習や規模の経済性の機会も与え、かつ、リスクの分配と共有、最適な価値連鎖の実現などを可能にするなど、さまざまな戦略的メリットをもたらすと論じます。逆に、ネットワークが、参加組織間の不和による生産性の低下や、行動の制約条件の増加などのデメリットも存在すると論じます。ネットワークがもたらすメリットとデメリットを深く理解することが、経営戦略論に適用するうえで重要だと言えます。


また、ネットワーク上で企業がどのポジションを占めているのかというのも、企業の競争優位性を理解するうえでは重要となってきます。ネットワークの中心にいるのか、周縁にいるのか、構造的同値関係にある他の組織はどうか、構造的空隙をたくさんもっているか、紐帯の強さはどうか、密度の濃いネットワークに囲まれているのか、ステイタスの高い組織とつながっているか、などの要素が、企業の競争優位性にかかわってくると考えられるのです。リソース・ベースト・ビューの考え方に適用するならば、企業の持続的競争優位性をもたらす資源には、固有技術やブランドや人的資源のみならず、組織が維持しているネットワークやソーシャル・キャピタルも含まれると考えられるわけです。

文献

Gulati, R., Nohria, N., & Zaheer, A. 2000. Strategic network. Strategic Management Journal, 21, 203-215.