戦略的提携はどのようにしてなされるか:ネットワーク理論による説明

ビジネスの世界では、企業どうしが戦略的な見地から、製品開発や市場浸透、その他さまざまな事柄においてお互いに協力しあう関係を樹立する「戦略的提携(アライアンス)」が増加してきました。戦略的提携では、お互いの組織が持つ資源を組み合わせて共同利用することによって、双方にとってメリットをだせる関係構築であるといえます。では、企業はなぜ、そしてどのようにして戦略的提携を樹立するのでしょうか。つまり、戦略的提携を誘発する要因は何であって、企業はどのようにして提携先となる候補を見つけだし、どのようにして提携先を選択し、提携関係を結ぶのかということです。


このような戦略的提携をもたらす要因について理解する枠組みとしてもっともポピュラーな理論が資源依存理論です。資源依存理論では、組織が生存するためには、組織外にあるさまざまな資源を利用する必要があり、組織外の資源に依存しているため、依存している資源を安定的に得るために、その資源を有している組織とつながりを持とうとすると論じます。お互いの組織同士が、自分の持っていない資源を持ち合っている場合には、相互依存関係にあるために、提携することによって両者ともメリットを得られることになります。


確かに上記のような説明を行う資源依存理論は、戦略的提携を理解するうえでクリアで分かりやすいのですが、Gulati(1995)およびGulati & Gargiulo (1999)は、資源依存理論に欠けているポイントを指摘します。それは、資源依存理論では、お互いに依存関係にある2つの組織が存在すれば、その2つの組織は自動的に戦略的提携を結ぶであろうと単純に考えているため、どのようにしてその2つの組織がお互いを知り合うことができるのか、どのようにして、それらの組織は、相手が信頼のおけるパートナーであると確信できるのか、どうやって複数の提携可能な組織から実際の提携先を選択するのかなどのプロセスについては一切触れられていないためです。そもそも、戦略的提携ニーズのある組織にとって、どのような企業が提携相手にふさわしいのかについての情報を得ることは容易ではありません。提携候補が見つかったとしても、相手が信頼できる組織かどうかを判断することも困難です。こういった問題について理解できる枠組みがなければ、現実の戦略的提携プロセスを理解する上では片手落ちになってしまいます。


そこでGulatiらは、戦略的提携の発生プロセスの説明に、資源依存理論に加え、社会ネットワークの視点を加えることによって理解を深めようとしました。社会ネットワークの視点を加える大きなポイントは、組織はネットワークに埋め込まれている存在であり、組織が埋め込まれているネットワークは、当該組織が戦略的提携の相手を見つけ出したり、相手の状況を把握するためのさまざまな情報が伝達される経路となりうるということ、また、組織をとりかこむネットワークの構造自体が、戦略的提携を結ぼうとするお互いの企業の行動に影響を与えると考えられることです。


そもそも提携ニーズがある組織が、お互いに依存関係にある(よって提携するにふさわしい)組織を知ったり探したりするのは、なんらかのネットワークを通じてなされるはずであるし、提携候補先が信頼にたる組織かどうかを確かめるのも、ネットワークを通じてなされるはずであるということです。組織は、すでになんらかの関係がある別の組織から、重要な情報を得ようとするはずなのです。Gulatiらは、組織と組織の直接的なつながりを中心に見る関係的視点と、組織が埋め込まれたネットワークの構造に注目する視点(すなわち、組織と組織の間接的なつながり)の両者から、戦略的提携の発生プロセスを論じています。


まず、組織は、以前何らかの提携関係にあった組織と、新しい提携関係を結ぶ可能性が高いことを論じました。なぜならば、過去に提携関係にあった組織については、すでにお互いに相手のことを知っているので、相手の状況や信頼性などを把握しやすいからです。したがって、相手のことを慎重に調べる手間と時間が省けるのです。過去に提携などしたこともない相手であれば、相手がモラルハザードを犯したり、機会主義的な行動に出てこちらの利益を損なうことにならないかどうか慎重になり、場合によっては検討の結果、戦略的提携を見送るということもありうるでしょう。


次に、相互に依存関係にある組織と組織がお互いに提携関係になく、かつ何のコンタクトがなかったとしても、もしそれらの組織が第三の組織を通じて間接的につながっているならば、それらの組織は戦略的提携を樹立しやすいと論じました。まず、第3者としての組織が、片方の組織の提携候補先を紹介するということが考えられます。そうしてはじめて、お互いの組織が相互に依存しているかどうかを把握できるのです。組織内部の情報は簡単には公になりませので、お互いがまったくつながりのな組織同士の場合、相手の状況や提携ニーズを探りあてるのは困難なのです。そして、お互いの組織が共通の別の組織とつながっていることにより、相手の情報を得やすく、お互いが相手を裏切ることがしにくくなります。相手を裏切れば、第3者としての組織との関係も悪化することになるからです。よってGulatiは、依存関係にある組織動詞の間接的なつながりの次数が短いほど、戦略的提携が起こりやすいと論じたのです。


Gulatiらは、実証研究によってこれらの予測を検証し、仮説が支持される結果を得ました。Gulatiらの理論は、戦略的提携のような組織間ネットワークの形成には、既存の組織間ネットワークが用いられること、つまり、既存のネットワークが新たなつながりを生み出し続けることによって進化していくプロセスも考慮したものといえましょう。提携関係が解消される場合も考えると、組織間ネットワークは決して静態的でなく、常にダイナミックに変化しつづけるものだといえます。あるいは、こういった戦略的提携のプロセスにも表れているように、既存の組織間ネットワークが、提携候補先企業の情報など、外部には出ないようなお互いの重要な情報を共有していくことによって、組織間ネットワーク内において、メンバー組織のみ利用可能な情報の内部蓄積が進展し、組織間の信頼関係も増していくことによって、組織間ネットワーク全体の競争力の高まりにもつながっていくとも考えられます。

文献

Gulati, R. (1995). Social structure and alliance formation pattern: A longitudinal analysis. Administrative. Science Quarterly, 40, 619-652.

Gulati, R., & Gargiulo, M. (1999). Where do interorganizational network come from? American Journal of Socioligy, 104, 1439-1493.