起業家になる人と企業の管理職になる人との違いはどこから来るか

起業家も企業幹部や管理職も、ビジネスにおいて重要な役割を担います。しかし、起業家と管理職とでは、活動内容や求められる資質は異なることでしょう。では、起業を志向して起業家になる人と、企業組織に入社して管理職になる人では、どこが異なるのでしょうか。人は、自らの性格にあった職業を選択するという考え方にそうならば、起業家と管理職とでは、その人たちがもつ性格タイプが異なると考えられます。今回は、性格特性という視点からの研究を紹介します。


性格特性において、信頼性が高く研究でもっともよく用いられるものが、5因子モデル(Five factor model or Big Five model)で、外向性、情緒安定性、誠実性、協調性、経験への開放性の5つで構成されます。起業研究の場合は、これらに加え、リスク志向性もよく用いられます。研究によると、誠実性と情緒安定性は、さまざまな仕事の業績と関連しており、管理職の場合は、これに外向性の次元が加わります。Zhaoら(2006)の研究グループは、これまでの先行研究を集約するメタ分析を用いることによって、起業家と管理職と性格特性との関連性を調べました。


Zhaoらの研究の結果、まず、起業家は企業管理職と比べて、誠実性次元(なかんずく、そこに含まれる達成志向)と、経験への開放性が有意に高いことがわかりました。これは起業のほうが職場管理よりも達成意欲の強さが求められ、かつ、新しいこと、非常識的なアイデアも受け入れつつ実行に移す機会が多いからだと考えられます。次に、起業家は管理職に比べ、情緒安定性が高く、協調性が低いということもわかりました。これは、起業のほうがさまざまな困難が伴うため、情緒が安定していないと継続が難しいことや、起業家は独立心が求められるため、仲間と協調していくようなタイプの人には向かないことと関連していると考えられます。


なお、Zhaoらが2010年に発表した別の研究では、起業意図(起業家になりたい度合い)と起業実績(起業して成功している度合い)の2つに分けたうえで、性格特性との関連をメタ分析で調べました。その結果、優れた管理職と優れた起業家を分けるもっとも顕著な性格特性は、経験への開放性であるとの結論を導きました。既述のとおり、経験への開放性が高い人は、現状に満足せず、新しいものや非常識を受け入れる探究心があり、新しい商品やサービスを世に出したいという志向を持っているからだと考えられるわけです。


もう1点、Zhaoらによる興味深い発見は、リスク志向の高い人ほど、起業意図と関連があるが、リスク志向は実際の起業実績とは関係がないということです。そもそも起業はリスキーですから、リスク志向の高い人が希望を抱きやすいのですが、リスク志向の高い人が実際に起業を成功させ、実績をあげられるとは限らないことを示唆しています。

文献

Zhao, H. & Seibert, S. E. (2006). The Big Five personality dimensions and entrepreneurial status: A meta-analytical review. Journal of Applied Psychology, 91, 259-271.

Zhao, H., Seibert, S. E., & Lumpkin, G. T. (2010). The relationship of personality to entrepreneurial intentions and performance: A meta-analytic review. Journal of Management, 36, 381-404.