悪いニュースはどれだけ採用活動にダメージを与えるか

企業の採用において重要なのは、いかにして学生や求職者に自社についての良いイメージを持ってもらうかということでしょう。学生や求職者は、限られた情報から、特定の企業についての初期イメージを形成します。そして、そういった初期企業イメージは「第一印象」として、後々の就職活動に大きな影響を及ぼすと考えられます。求職者は、第一印象に基づいて、志望企業を選択し、応募をしていくので、その時点で外れてしまうと、その人が実際に応募する可能性は極端に低くなってしまうからです。


そこで問題となるのが、企業にとっての悪いニュース、すなわち望ましくない情報がどれだけ求職者から見た当該企業の魅力にダメージを与えるかということです。Kanar, Collins & Bell (2010)は、就職活動中の大学生を対象として、企業にとって望ましくない情報が企業魅力に与える影響を調べました。


彼らの研究結果によると、望ましくない情報が、ネガティブな企業魅力につながる影響は、望ましい情報が、ポジティブな企業魅力につながる影響よりも強いものであることを確認しました。しかも、望ましくない情報は、即座にネガティブな企業魅力の形成に寄与されるのに対し、ポジティブな情報はそうではなく、即座にポジティブな企業魅力に寄与する度合いは小さかったのです。つまり、学生は、初期の企業魅力形成において、企業についての望ましい情報よりも、望ましくない情報をより重視していることを示しています。


さらに分かったのは、望ましくない情報がネガティブな企業魅力につながる効果は、その情報に接してから時間が立ったあとでも顕著に見られたこと、そして、そういった企業魅力が、実際にその企業を志望するか否かの決定に中心的な影響を与えているということでした。加えて、望ましくない情報に接した場合のほうが、望ましい情報に接した場合よりも、企業全体の印象をよく覚えていることもわかりました。つまり、望ましくない情報が企業魅力に与える影響は、後々まで引きずるということがわかったのです。


なぜ、企業にとって望ましくない情報はこれほどまでに企業魅力に形成に悪影響を及ぼすのでしょうか。Kanarらによれば、企業は社会全般や求職者に対し、企業魅力を高めるために望ましい情報を与えることに腐心しているため、世間では望ましい情報が氾濫していることを挙げています。望ましい情報はある意味着飾った情報なので、本当の企業の姿を判断するのにそれほど役立たないと考えられます。そうだからこそ、悪いニュースすなわち望ましくない情報は、企業の本当の姿を判断するうえで役立つ情報であると考えられるのではないかということです。


また、人間は一般的に、ポジティブな情報よりもネガティブな情報により注意を払うというバイアスを持っていることも事実です。とりわけ意思決定の初期段階では、数多くの選択肢の中から半ば自動的にあまり魅力的でない選択肢をふるい落とすという情報処理をやっています。その場合には、選択肢の良い面と悪い面の両方を見てじっくりと評価するのではなく、悪い面だけを探して、それが見つかれば自動的に足きりするという情報処理がなされていると考えられます。とりわけ就職活動初期の企業魅力の形成においては、このような心理プロセスが介在していることも考えられるわけです。

文献

Kanar, A., Collins, C., & Bell, B. (2010). A Comparison of the Effects of Positive and Negative Information on Job Seekers’ Organizational Attraction and Attribute Recall. Human Performance, 23(3), 19.