日本企業における「共同体的仕事配分」

日本的経営の大きな特徴として「共同体的仕事配分」というのがあります。これは、欧米のように、職務記述所を中心として個々人が明確に定義された職務を遂行する方法と大きく異なります。これが、採用から配置、教育、評価、報酬などの人事管理の仕組みにおいて、欧米と日本企業を大きく隔てるものとなってきたと考えられます。鈴木・橋野・白石(2007)は、経営史の視点から、この特徴の成立の過程を解説しています。


彼らによれば、日本的雇用慣行の特徴とされる年功制も終身雇用も、大量生産方式が大企業のもとで確立したところでは、人的資源の内部化の一環として、どこでも見られた特徴であり、日本企業に固有の特徴であるとはいえないといいます。ところが、日本企業では、ホワイトカラー層、ブルーカラー層ともに、会社に対する一体感と強いコミットメントを生み出し、仕事の過程や成果の改善について積極的に取り組み、従業員の間で仕事のやり方を共通するといった特徴がみられました。これは、日本企業における「職場集団」と、表題の「共同体的仕事配分」と関連があると思われます。


鈴木・橋野・白石によれば、日本の企業において、身分制や職制以上に実質的な意義を有していたのが「職場集団」です。これは、生産や販売など会社業務の現場における仕事の単位をもとに生成した人々の集まりです。日本企業では、仕事は個々人の職務として細分化されて定められることはなく、職場単位で割り振られていたわけです。職場集団としての各職場は、数人から10人程度で構成されており、職場内で作業をどのように割り振るかは、課長や組長など、その職場の責任者に任せられていました。


職場集団では、職務が個々の構成員にまで細分化されていないだけでなく、職場内の構成員で頻繁に配置を交代しながら仕事をしていくことを特徴としていました。しかもそれは、公式な配置転換ではなく、あくまで職場の慣行として行われていたのです。さらに、職場集団は、日本企業における技術養成と教育訓練の単位であったともいいます。


鈴木・橋野・白石は、職場集団が、作業の段取り、職場内配置、教育訓練などにおいて大きな役割を果たし、職務を超えた個々人のコミットメントを引き出す仕組みになったと指摘します。例えば、入社後にある職場に配属されると、その職場内のすべての仕事を経験しながら技能や知識を身につけていきます。このように個々人が広範な仕事を経験するというのも日本の企業の特徴です。ブルーカラーのみならず、販売、技術、輸出、企画といったホワイトカラー層でも、本社や営業所の「課」に配属され、数年かけてその課の仕事をひととおり習得するような仕組みが根付いています。ここでも、各人の職務があらかじめ定められたり、それによって報酬が決まったりするのではなく、課が仕事の単位であり業績評価の単位であるわけです。


職場の構成員に仕事を配分するのは、課長の役割であり、難しい仕事が生じたときにはより有能な社員にそれを配分したり、課の構成員すべてがひととおり課の仕事をこなすよう配置を工夫したりしたわけです。このように、日本企業では、職場集団を仕事の単位とする方式が発展し、責任者のもとに、集団で仕事をやっていくという職務遂行体制が確立したのだといえましょう。