クリエイティビティの「感情シフト」と不死鳥モデル

感情やムードはクリエイティビティに深く関与していると考えられています。一般的には、ポジティブなムードがクリエイティビティを高めると考えられていますが、そう単純な話でもありません。むしろ、クリエイティビティにはもっと幅広い感情経験が関与すると思われます。

参考:「感情はクリエイティビティにどう影響するか」


Bledow, Rosing, Frese (In press)は、クリエイティビティにはむしろ、ポジティブな感情とネガティブな感情の両方のダイナミックな相互作用が重要だと考え、それを「感情シフト」で説明しようとしました。彼らの主張は、新しいアイデアが湧きおこるのは、ネガティブ感情が生じた後であるというもので、気分が落ち込んだ(凹んだ)あとに元気になって創造力が高まるプロセスを「絶望の淵から不死鳥のようによみがえる」という例えを用いて説明します。つまり、なんらかの出来事によって気分が落ち込み(ネガティブムードに陥り)、その後、だんだんと気持ちがポジティブになっていくときに、クリエイティビティが発揮されやすいと説くのです。これが繰り返されるというクリエイティブのプロセスが、灰になっては蘇ることを繰り返す「不死鳥」のようだというわけです。


Bledowらは、クリエイティビティにおけるPSI(Personality-Systems-Interaction)理論として、ポジティブムードとネガティブムードの両方がクリエイティビティに必要であることを説明します。PSI理論によると、ムードのポジティブ軸は、人間の認知プロセスがゆっくりで制御された逐次処理的なモードか速くて並列処理的なモードになるかを左右します。ムードがポジティブになるほど活動的になり、前者から後者に移行し、思考や行動が直感的、探索的、拡大的になります。ムードのネガティブ軸は、視野が狭くなるか、広くなるかを左右します。ネガティブムードになるほど、視野が狭まり、不快感や不安のもととなる特定の問題に焦点をあて、分析的に思考するようになります。ネガティブムードがなくなっていくに従って、視野が広がっていきます。


Bledowらによれば、ポジティブムードは、思考を活発化し、柔軟な思考を促すのでクリエイティビティにつながりますが、それには、ネガティブムードによって整えられた「クリエイティビティの下地」が必要だと考えられます。視野を狭くするネガティブムードはそれ自体がクリエイティビティにとって好ましいというわけではないのですが、気分が落ち込んだりしたときには、視野が狭くても特定の問題に焦点を当て、これを解決するためには努力が必要であることを認識するきっかけを作ります。


最初に気分が落ち込んだ状態が起こり、そこからネガティブムードが減少していくプロセスによって、視野がだんだんと拡大していきます。視野が拡大していくと、クリエイティビティを発揮するのに重要な多様な情報や事象に目が向くようになります。それと同時に、だんだんと気分が良くなるすなわちポジティブムードが高まっていくならば、思考が活性化され、思考の柔軟性が増し、発散的思考や直感的思考も活用され、新しいアイデアを思いつきやすい状態を作り出します。つまり、初期状態としてネガティブムードが高く、ネガティブムードがその後下がっていき、反対にポジティブムードが上昇していくというダイナミックなプロセスが、クリエイティビティを高めるのだと論じたわけです。Bledowらは、この理論の妥当性を、2つの実証調査によって確認しました。

文献

Bledow, R., Rosing, K., & Frese, M. (In press). A dynamic perspective on affect and creativity. Academy of Management Journal.