クリエイティビティの鍵を握る「無意識思考」

現代のビジネスにおいて、新しいものを生み出す力であるクリエイティビティ(創造性)はこれまで以上に重要になってくると思われます。クリエイティビティはどのようにして起こるのか、あるいはどのようにして高めることができるのかを考えるとき、それを、意識的に何かを創造するプロセスとして考えがちですが、クリエイティビティの鍵を握るのは「無意識思考」にあるという見方があります。例えば、ふとしたときに突然、新しいアイデアをひらめくようなケースは誰もが経験しますが、これは、意識しなくても、無意識のレベルで思考が行われており、その結果、新しいアイデアが創造され、意識に上ってきたといえるでしょう。


George (2007)は、組織行動における創造性の研究を概観する中で、上記のような無意識の重要性を支持する「無意識思考理論」を紹介しています。無意識思考とは、特定の対象やタスクに関する思考だが、意識がそれとは他のことに向いているときとか、注意が散漫なときに生じるプロセスだと定義されます。この無意識思考は、創造的なアイデアを生み出すための孵化(インキュベーション)にとりわけ重要であることが示唆されます。意識的な思考も大切ですが、無意識的思考が加わるとさらに創造性がが高まると考えられるのです。


では何故、無意識思考がクリエイティビティにとって重要なのでしょうか。それには、意識的思考がどういう面でクリエイティビティを阻害しうるのかを考えるのが近道になりそうです。まず、人間が行う意識的思考は1つの時間に1つの作業しかできないために、複数の異なる多様な事柄を同時に処理するには向いていません。創造性は異なる要素が組み合わさることによって生じることが多いため、これは意識的思考の限界を意味しています。


次に、意識的思考は、すでに本人が持っている既成概念や先入観によって物事を処理したり、特定のルールに従って思考を実行しがちであるために、意外な視点や意図せざる洞察を得るのに不向きな面があります。意外な面から物事を見たり、既存の枠組みをとっぱらったところに創造性が立ち現われるという側面を阻害する要因となるわけです。さらに、創造は、孵化させるのに時間がかかるプロセスです。そんなに長い時間、意識的に対象となる物事を考え続けることは困難です。


無意識的思考は、上記のような意識的思考の限界を補うかたちでクリエイティビティに資すると考えられるわけです。人間は、意識していなくても、注意が散漫な状態であっても、無意識のレベルで思考することができるのであり、その無意識の領域というのは、意識している領域よりも何倍も大きく、そこで時間をかけて、さまざまな要素が熟成され、化学結合していくことを可能にさせると考えられるわけです。

文献

George, J.M. 2007. Creativity in organizations. Academy of Management Annals, 1, 439-477.