日本企業が目指すべき経営・人事のグローバル化とは

近年、企業経営のグローバル化、および人材のグローバル化が頻繁に叫ばれるようになってきました。以前から、多くの企業がグローバルなレベルで競争していかざるをえないことはわかっていたことであり、ここ数年で急激に経営や人事のグローバル化がキーワードになってきたことは、遅きに失する部分もあります。それはさておき、今回は、日本企業がグローバル化を目指す場合、とりわけ人材面や経営管理面でグローバル化を推進していく場合にどのような点に留意すればよいのかについて、識者や経営者の著作を参考にしながら考えてみたいと思います。


まず、日本企業がグローバル化するにあたって、お手本とする企業はあるかどうかです。例えば、グローバル化の先を走っているのは欧米多国籍企業だという先入観があるかもしれません。となれば、日本企業は、欧米多国籍企業を見習って、自社の経営も欧米化する必要があるのでしょうか。また、その一環として企業の公用語を英語にすることはどうなのでしょうか。おそらく、欧米企業を真似ることについては間違っているといえるでしょう。


企業のグローバル化は、企業が欧米化することでも、ましてや無国籍化することでもないと考えられます。むしろ、グローバル化するからこそ、日本らしさが求められるのではないでしょうか。波頭・冨田(2011)は、グローバルで成功している会社は実はローカルくさい、あるいは「その国くさい」と言います。日本でいえば、業績が好調でうまく国際化が進んでいる企業の典型は、都会っぽくない会社が多いと指摘しています。たとえば、YKKコマツはどちらも北陸に本社があり、トヨタもずっと豊田市に本社を構える地方の会社といえるでしょう。成功しているフランスの会社は、アングロサクソンのルールにのっていても、フレンチくさいし、フィリップスはいたってオランダくさい。エリクソンだってノキアだって北欧くさい。GEはほんとうに米国くさいし、IBMだって体臭プンプンだというのです。


また、柳井(2011)によると、ファーストリテイリング・グループでは2010から「民族大移動」と銘打った人事清濁をスタートしています。これは、海外のグループ企業も含めた国境を越えた人事交流を活発化させ、10年後には、日本の本部社員の半分以上は外国籍の人たちが占めるようにするというものです。しかし、こうした施策は決して欧米流の経営を目指しているからではないと柳井は言います。そうではなく、日本人の、日本のDNAという長所を生かしたかたちで「日本の新しい会社」になろうとしているのだというのです。「組織の一員として仕事をする忠誠心」「勤勉さ」「清潔で、きれい好き」「異質のものを受け入れて自分のものにする包容力」。ユニクロは、こういった日本の持つ良さ、DNAに磨きをかけることによって、世界で勝負しようとしているわけでしょう。


また、柳井はユニクロにおける英語の社内公用語化に触れ、それはユニクロにとっては必然のことだからと言います。今後はさらに海外に出て行ってグローバルに戦うのであり、社内に外国籍の社員が増えるわけだから、ビジネス・コミュニケーションのツールとして英語を使うのは当たり前というわけである。そうしなければ、外国人にとって働きやすい会社にならないのです。しかし、これは決して経営を欧米化しようとしているわけではありません。あくまで、ユニクロは日本で生まれ、日本で育った企業であり、日本のDNAを捨てるつもりは全くないと言います。英語はコミュニケーションの手段であり、外国人も、日本の会社としてのユニクロのDNAや商売の考え方をじっくりと学んでもらうと柳井は言うのです。


以上のようなことからヒントを得るならば、日本企業が目指すグローバル化とは、あくまで日本らしさ、日本で生まれ、育った会社としての強みを磨くことによって、さらにその会社の独自性すなわち「ウェイ」を強化、浸透させることによって、グローバルな舞台で勝負するというのが理想的な姿なのではないでしょうか。