事業構造の変化で人材が入れ替わる欧米企業、入れ替わらない日本企業

変化の激しい現代において、企業をとりまくビジネス環境が変化すれば、それに対応すべく自社の戦略や事業構造を変化させなければなりません。この戦略や事業構造の転換に伴う人材の動きについては、欧米と日本でかなり特徴が異なります。


欧米企業の特徴は、戦略や事業構造が変化すれば、それに応じて社内の人材が入れ替わるところです。雇用の基本として、職務と個人が1対1に対応しているので、事業構造の変化に伴い、必要な仕事の種類が変化するならば、必要な人材も変化するということなのです。事業構造の転換に伴って特定の職務が不必要となれば、その職務はなくなります。そうなれば、その職務をこなすのに最適でだった人材も自動的に不要となり、いったん外部労働市場に放出されます。一方、事業構造の転換によって新しい種類の職務が必要となれば、その職務をこなすのに最適な人が外部労働市場から新たに採用されます。要するに、企業の事業構造の変化に応じて、職務もそれに対応した人材もともに入れ替わるというのが欧米の仕組みだと言えましょう。企業を超えた人材の動きを円滑にする仕組みが、労働市場なのです。


欧米の仕組みの背景には、戦略の推進やビジネスのオペレーションにおいて人間を信用していないというところにありそうです。人間を信用して彼らの日々の判断に任せるよりも、ビジネス・システムとしてしっかりと仕組みを作る。その仕組みのコンポーネントとして職務を明確に定義する。そうすることにより、職務要件として定められたことをきちんとこなす人材がその職務と1対1で雇用されさえすれば、事業そのものは円滑に遂行されるという考え方なのでしょう。


一方、日本企業の場合は異なります。事業構造が変化して、不要な職務や新たに必要な職務が出てきても、それに応じて自動的に人材が入れ替わるわけではありません。日本では転職が頻繁に行われるわけではなく、中途採用労働市場が発達していません。そもそも、雇用の基本として、職務と個人とが1対1に対応しておりません。あくまで個人は、特定の職務をこなすためにではなく、企業のメンバーとして雇用されているのです。原理的には、企業が命じるあらゆる職務を遂行する存在として雇用されているのです。


したがって、多くの日本企業は、事業構造の変化に対しては、人材の配置転換で対応します。要らなくなった職務をしていた人材を、新しく必要になった職務に再配置するというようなやり方です。つまり欧米のように労働市場を介して職務と人材が企業をまたがるかたちで移動するのではなく、あくまで企業の中で配置転換、担当職務の変更というかたちで人材が移動するのです。


しかし、このような配置転換をスムーズにこなすためには、人材そのものに、新しく未経験の職務であっても対応できるような柔軟性を持ってもらう必要があります。これは、欧米のように特定の職務に専門特化した人材では無理です。それはどうすれば可能でしょうか。1つは、3年に1度くらい、部署や担当を変わるという定期的な人事異動すなわちジョブローテーションを実施し、多能工的なゼネラリストを育てるということです。配置転換に慣れていれば、事業構造の変化に伴う配置転換も自然にこなせますし、ゼネラリストであるがゆえにどんな仕事をやらせてもそこそここなせるような人材だからこそ、新しい事業環境にも適応できるということなのです。


また、職務を専門特化しすぎないという手もあるでしょう。高度な専門能力を持った人材にしか遂行できないように職務設計をするのではなく、職場のみんなで話し合いながら力を合わせて対応できるような仕事のやり方にするわけです。システムとして事業を作っていくというよりも、現場の人間を信用し、彼らの手探り感に仕事のやり方を任せるようなスタイルです。そのためには、職務の定義を曖昧にして、その都度その都度、臨機応変にこなすような仕事のスタイルになってきます。そうなると、メンバー同士の息が合っていないとなかなか仕事がこなせない。職務が専門特化していれば、その仕事をこなす専門能力を持っていれば、外部から転職してきてもすぐに仕事を始められます。しかし、お互いに気ごころの知れたメンバーが息を合わせて仕事をこなしていくスタイルでは、突然外部から転職してきた社員が、いくら専門能力を有していても、その仕事のやり方に溶け込むことがなかなか難しいといえます。


職務が明確に定義されておらず、職場のメンバーがお互いに以心伝心で仕事を進めていくためには、長い間同じ会社で苦楽を共にしてきたという場の共有が必要だからです。このように、日本の多くの企業における定期的なジョブ・ローテーションによるゼネラリスト社員の育成、およびメンバーが息をあわせて臨機応変に仕事を進めるスタイルが、外部から転職しようとする人にとっては大きな参入障壁となっています。これは、長期雇用が基本で転職の少ない労働環境である日本の姿を象徴しています。