流行する経営手法はどのように変容していくのか

現代のビジネス社会では、新しい経営手法が提案され、それがブームとなると多くの企業がそれを導入することで普及していきます。しかし、新しい経営が流行し、ビジネス社会で普及していくに従って、その手法の形がどんどん変容し、オリジナルなものとは異なっていくことが考えられます。例えば、1990年代後半から2000年代前半に流行した「成果主義」人事制度は、多くの企業が導入したものの、「成果主義」の意味が、各企業にとって都合のよいかたちで解釈され、実際に導入、運用された成果主義人事制度の姿は各社各様であった可能性があります。実際、賃金的には年功的運用がなされていても、別の意味で「成果主義である」と主張するようなケースもあったと考えられます。


このように、新しく生み出された経営手法が、ビジネス社会に普及するにあたって形を変えていく様子を題材に、それがどのような条件で起こるのかを理論化したのが、Ansari, Fiss & Zajac (2010)による研究です。Ansariらは、そもそも特定の経営手法が企業に導入されるということは、「導入する」「導入しない」の2分法で理解すべきではないといいます。むしろ、その経営手法がいかなる形で企業に導入されるのかが問われるべきであるというわけです。つまり、企業は特定の経営手法を「そのままの形」で導入するというよりは、企業の状況に合わせたかたちで「カスタマイズ」して導入するはずだということです。特定の経営手法が普及していく中でそういったカスタマイズするプロセスが繰り返されることによって、経営手法自体も変容していくと考えられるのです。


この導入プロセスを理解するために、Anrariらは、経営手法の導入の仕方を「忠実度(fidelity)」と「度合い(extensiveness)」の2軸で捉えます。前者は、どれだけオリジナルな経営手法に忠実な形で導入するか、後者はどれだけ深いレベルまで導入するかを意味しています。Anrariらは、導入のさいにカスタマイズが起こるのは、そもそもオリジナルな経営手法が、企業の状況とフィットしていないからだと言います。経営手法と企業状況とのフィットには「技術面でのフィット(企業がすでに利用している技術とフィットしているか)」「文化面でのフィット(企業カルチャーとフィットしているか)」「政治面でのフィット(企業の政治的な志向とフィットしているか)」の3種類があるといいます。企業は、この3種類のうちのいずれかでミスフィットが生じている場合には、導入の忠実度と度合いを変えることによって、フィット感が高まるように導入すると考えられるわけです。


さらにAnsariらは、経営手法そのものの特徴として「多様解釈の可能性(interpretive viability)」「分割可能性(divisibility)」「複雑性(complexity)」の次元をあげ、これらの次元の違いによっても、企業が手法を導入するさいの忠実度や度合いが変化することを予測します。多様解釈の可能性は、特定の経営手法のコンセプトが多義的であったり曖昧性が高かったりするために、いろんんかたちで解釈することが可能だということです。多様解釈の可能性が高ければ、企業は自分の都合のよいようにその手法を解釈して導入しようとするので、導入の忠実度は低くなると考えられます。分割可能性は、その手法がサブコンポーネントの分割可能かどうかの度合いで、分割可能性が高いほど、その手法を部分的にしか導入しない企業が増えるので、導入の度合いが浅くなることが予想されます。さらに、手法の複雑性が高い場合、カスタマイズをしにくいため、導入の忠実度や度合いはともに高くなることが予想されるわけです。


以上をまとめると、特定の経営手法の流行とともに多くの企業がそれを導入しようとしますが、企業状況とのフィット感が悪い場合にはそれを解消しようとする意図が働き、そしてその経営手法の特徴の度合いによっても、手法導入の際のカスタマイズが起こるようになり、それが繰り返されることによって経営手法も変容していくのだと考えられます。

文献

Ansari, S., Fiss, P.C. and Zajac, E.J. (2010). Made to fit: how practices vary as they diffuse. Academy of Management Review, 35, 67–92.