最強のビジョナリー・カンパニーをつくる方法

わが国でも「ビジョナリー・カンパニー」という本がベストセラーとなり、企業が「ビジョナリー」であることへの関心は高いと思われます。今回紹介するのは、この一連の書籍の著者の話ではなく、科学的証拠(エビデンス)に基づいた経営(エビデンス・ベースト・マネジメント:Evidence-based management)について書いたLatham (2009)が紹介する、ビジョンを通じて高業績を実現するための方法です。


それは、企業が指し示すビジョンに従業員が心躍らせて、ビジョンを実現するためのロードマップである戦略を実現していくプロセスを可能にする経営です。しかもそれは、経営学・組織行動論などの科学的な研究の成果に基づいた方法でもあるのです。その方法は、以下の4つに分解できます。

  1. 心躍る情熱的なビジョン・ステートメントを構築する
  2. SMARTゴールを設定する
  3. 数量的に測定し、一貫性を保つ
  4. ビジョン達成のためメンバーに関与し続ける

まず、メンバーの心を躍らせる情熱的なビジョン・ステートメントを構築することです。マーチン・ルーサー・キングやスティーブ・ジョブの例を持ち出すまでもなく、メンバーを企業の目標に駆り立てるのは「感情」です。ですから、感情を刺激するようなビジョン・ステートメントでなくてはなりません。Lathamは、そのようなビジョン・ステートメントを作るためのポイントとして「記憶に焼きつく(一度聞いたら忘れないような)もの」「(顧客など外部にではなく)メンバーに向けられたもの」「感情に訴えるもの」の3つを挙げています。この3つを押さえることにより、効果的なビジョンを設定できるといいます。


次に必要なのが具体的な目標です。ビジョンはメンバーの感情に訴え、発奮させるもの。しかしそれだけでは不十分で、具体的にどのようにしてビジョンを実現するのかのロードマップが必要です。それを指し示すのがSMART目標です。SMARTとは、「具体的(Specific)」「測定可能(Measurable)」「(困難だが)実現可能(Attainable)」「(ビジョンや戦略に)関連している(Relevant)」「(実現までの)期限が定められている(Timebound)」の略です。SMART目標は、企業のビジョンを実現するためにメンバーが何に集中すればよいのかを指し示すものであり、かつ、高い目標に挑戦させ、実現したときの達成感を与え、期待される行動や成果への曖昧さを排除し、そしてストレスを軽減するとともに高業績を生み出す優れものなのです。そのためにも、目標の数は3〜5つに絞るのが望ましく、最終目標の実現のためのサブゴールを設定するのが望ましいとLathamは指摘します。


次に、目標への達成度合いを数量的に測定し、ビジョンや目標の達成にむけたかたちで数量的測定の一貫性を保つことが大切になってきます。分かりやすい例が、資格試験や受験のための模擬試験です。模擬試験があるからこそ、合格という最終目標に対して自分がいまどの位置にいるのか、どこが弱点でどうすれば実力が伸びるのかなど、いろいろと戦略を練りつつ目標達成に向けた努力を継続することができます。ビジョンや目標に対する現状を、数量的に測定することが大切だというわけです。数量的測定とビジョン・目標とが一貫しているということは、現在の数値を高めることによってビジョンや目標が実現できるのだということが明確だということです。ですから、メンバーは、測定数値をあげるにはどうすればよいのかに意識を集中することができるのです。


最後が、ビジョン実現に向けて頑張るメンバーに対し、トップとして関与し続けることです。これを分解すると、「メンバーがビジョンや戦略を実現するために十分な知識やスキル、資源を持っているかに気を配り、それらが不足している場合には与える」「ほんの少しの前進であってもメンバーを褒め称え、ビジョンや戦略の実現のための心理的サポートを惜しまない」「メンバーからの反対意見を奨励し、それに対して真摯に耳を傾ける」ということになります。情熱的なビジョン、具体的な目標、そして実現度合いを測る測定方法が確立されれば、後はトップとして如何にメンバーをサポートできるかにかかっています。ポイントは、ビジョン・戦略の実現に必要なものは惜しみなく与える、少しでも前進していることにポジティブに反応し、従業員を激励する、そして、一番大事なのはビジョン、戦略の実現であることを踏まえ、従業員の声に耳を傾けるということなのです。


この4つの方法を用いれば、組織全体が一丸となって、ビジョンの実現に向けてたゆまぬ努力をしつづけることができる組織を、そして実際に高業績を可能にする組織を構築することができるのだということLathamは示唆するのです。