会社への帰属意識の醸成に最初の上司が重要なワケ

会社に入社する新人にとって、その会社に自分自身をどれだけ帰属させるか、あるいは組織と自分自身を同一化(アイデンティフィケーション)するかは、その会社で長期間にわたって仕事をしていくうえで重要な役割を果たします。自分自身のアイデンティティに、所属する会社が深くかかわることは、自分の行う仕事や会社での生活を肯定的にとらえることにつながりますし、それゆえに、仕事のやる気やコミットメントにもつながると考えられるからです。


これまで、組織社会化研究によって、いかに新人が会社に適応していくかの研究がなされてきましたが、新人にとって最初の上司がいかに大切かという視点はあまり強調されてきませんでした。このような問題意識に基づき、Sluss, Ployhart, Cobb & Ashforth (2012)は、新人が最初の上司との関係に対して持つ帰属意識(関係的アイデンティフィケーション)が、しだいに会社という組織そのものへの帰属意識(組織アイデンティフィケーション)につながっていくプロセスについて仮説を立て、実証的な研究を行いました。なお、以下においては、組織や関係への帰属意識を、組織や関係への同一化(組織アイデンティフィケーション、関係的アイデンティフィケーション)と同等の意味のコンセプトとして用いることにします。


なぜ新人にとって会社への帰属意識を醸成するのに最初の上司が重要なのでしょうか。その理由としては、まず直属の上司は、新人にとって最も身近な関係であると同時に、会社そのものの特徴をなんらかのかたちで体現する存在だということが挙げられます。また、そもそも会社に対する情報が不足している新人にとって、直属の上司は、会社の特徴などの情報を入手するうえでの信頼できる存在でもあります。そして、新人がまっさきに帰属意識を生み出すのは、抽象的かつ情報の少ない組織そのものというよりも、日常で具体的な上司との関係においてだと考えられるからです。つまり、上司との関係において帰属意識を見出した新人は、その帰属意識を、特定のメカニズムを通じて組織全体への帰属意識に昇華(正確には一般化[generalize])させると考えられるのです。


Slussらは、上司との関係への帰属が、会社への帰属に昇華していくメカニズムについて、感情的側面、認知的側面、行動的側面(ABC: affective, behavioral and cognitive)から説明します。まず、上司との関係への帰属意識は、感情的移転(affect transfer)をもたらすと論じます。つまり、上司とのポジティブな関係を築きあげることによって帰属意識が高まると、そのポジティブな感情が、会社全体への印象にも移転することにより、会社全体へのポジティブな感情を生起し、それが会社への帰属意識につながるというわけです。次に、上司との関係に帰属意識を見出すと、上司の意見に影響される(social influence)という認知的メカニズムが働くと論じます。上司が組織の特徴を体現するような存在であるならば、上司の意見は、会社に対してポジティブなものであるため、新人本人も会社へのポジティブな態度を形成し、それが会社への帰属意識につながるというわけです。最後に、上司との関係に帰属意識を見出した新人は、上司にとって都合の良い行動をするようになります。それはおのずと会社全体にとっても都合のよい行動ということになるので、それが組織への帰属意識につながると論じます(behavioral sensemaking)。


Slussらは、2つのフィールド研究を通じて、上記のようなメカニズムが働く可能性を確認すると同時に、上司との関係への帰属が会社への帰属に昇華するための条件も明らかにしました。その条件とは、新人から見て、直属の上司が、会社全体の特徴を体現する存在であると感じているかどうかということです。すなわち、上司が会社の一員として会社全体の特徴を体現している存在だと感じている場合に限って、上司との関係への帰属が、会社全体への帰属へと昇華していくことが明らかになったのです。逆にいえば、直属の上司が、特異な性格や行動をするなど、その会社らしい存在であった場合には、いくら上司との関係に帰属意識を見出しても、それが会社全体への帰属意識には発展しないことを意味します。


本研究によって、新人にとって最初の上司は、本人が会社への帰属意識を高めていくうえでとても重要な存在であるということがわかってきました。まず、新人が最初の上司とよい関係を築き上げ、そこに帰属意識を感じるようになるかどうか、そして、その上司が会社の特徴を体現した存在であるか。この2つの条件が整えば、会社への高い帰属意識が醸成される可能性が高まるということなのです。

文献

Sluss, D. M., Ployhart, R. E., Cobb, M. G., & Ashforth, B. E. (2012). Generalizing newcomers' relational and organizational identifications: Process and prototypicality. Academy of Management Journal, 55, 949-975.