ニューサイエンスに学ぶ組織論5:変化の基本思想

組織変革は、組織マネジメントにおける最も本質的な活動もしくは現象の1つであり、多くの組織において課題や問題を抱えるテーマでもあります。組織を取り巻く環境は日々変化しており、その変化に対して組織も変化し適応し続けなければ組織は生き残っていけないという認識を多くのマネジャーは持っていると思います。それでもなお、「うちの組織は変われない」「旧態依然としている」「大企業病から抜け出せない」などの悩みを抱えるリーダーやマネジャーも多いことでしょう。では、ニューサイエンスは、この組織変革についてどのような知見をもたらしてくれるのでしょうか。今回も、ウィートリー(2009)を参考に考えてみましょう。

 

まず、ニューサイエンスに基づく組織論では、組織変革すなわち変化とは何かに関する基本的な思想が、古典的な科学に基づく機械論的な世界観、組織観での変化の思想とは根本的に異なっていることを理解することが大切です。すなわち、機械論的な世界観でとらえられるように、部品を組み立てるように組織を設計して動かし、不具合があると思ったら故障した部品を探して取り換え、環境が変化すればそれに応じて部品を取り換えたり組み立て方を変えるといった組織変革の発想とは全く異なるということです。ニューサイエンスが教える変化の思想は、自然や生命が内包している弾力的に変化しつづける力、新しいものが創造される力、変化し続け創造を繰り返しならがも不変の自己を持続させるという特徴をうまく利用するということになるでしょう。

 

古典的な科学の「モノ」としての世界観だと、組織は質量のあるモノから成り立っており、力を加えないと動きださないものだし、いったん慣性の法則に従ってしまうと力を加えない限り方向転換できないといえます。一方、ニューサイエンスの「コト」としての世界観では、システム全体を構成する関係性というネットワークの相互作用プロセスや変化や創造の源泉となるエネルギーといったダイナミックな力を借りることで組織が変化していくといえます。ただ難しいのは、それを可能にするためには、相互作用しながら変化するシステム全体をみる必要があるという点です。これについてウィートリーは、逆説であるが、部分に着目することで全体への洞察を得ることができるといいます。そうすることで、全体系で作用し、いたるところに影響を及ぼしているダイナミクスに気づくというのです。

 

つまり、システムのダイナミクスと個体との相互作用を知るためには、全体と部分を交互に見て何かを発見するダンスのような見方が必要だというのです。また、全体系の意識を発達させる方法として、マインドマップ、ドラマ、ストーリー、絵など非線形の思考や直観を育てる方法がたくさんあるともいいます。その際は、知力だけでなく感覚を呼び覚ますことが大切で、そうすることで複数のレベルの現象の中に同時に存在できるようになるとウィートリーは指摘しています。そして何よりも、組織を一種の生命体ととらえることがポイントです。生命体も組織も、相互依存の関係で成り立っている濃密なネットワークなのであり、その相互作用プロセスが変化や創造の原動力となっているからです。

 

そして、組織というシステムの変化が起こるためには、システムが、システム自体について、システム自体からもっと学ぶ必要があるとウィートリーはいいます。それによって、システムが1つにまとまるプロセスが必要だというのです。この点について、システムが3つの重要な領域で自己認識を育てられるように手助けすることが重要だといいます。1つ目は、私たちは誰か、何者になろうとしているのかといった基本的なアイデンティティを共有すること、2つ目は、新しい情報を共有すること、そして3つ目は、システム内のどの人とも関係性を築くことです。これは、生命体で言えば成長の源泉である自己準拠のプロセスと関連しています。生命体が何のコントロールも受けずに秩序を、そして変化を否定しない安定したアイデンティティを創造できるのは、自己準拠があるからなのです。

 

生命体の守備一貫したプロセスを支えているのが自己準拠であり、自己準拠によって調和が保たれているのです。あらゆる生物は、自己を創造し、自己を利用して新しい情報をふるいにかけ、自分の循環を共創造するわけです。このように、ニューサイエンスは、生命に備わっている大きな創造力、そして循環という生命の本質をはっきり理解させてくれるのです。

 

そして、ニューサイエンスが描く世界は、相互接続のネットワークの世界であり、システムのわずかな乱れが、その発生元から遠く離れた部分に大きな影響を及ぼしうる世界です。些細な行動が大きな混乱やカオスとなって噴出する可能性がありますが、カオスが突発すると、現在の構造が崩壊するだけでなく、新しい秩序が生まれるための状況も作り出されます。この世界は、命令も管理も権威もなしで自らを自己組織化する方法を知っています。場所を選ばず、生命体は関係のネットワークとして自己組織化します。自己組織化は創造力を呼び覚まして、結果を出し、強く、適応力に富むシステムを築きます。そして、驚くほど新しい強さと能力を生むのです。

参考文献

マーガレット・J・ウィートリー 2009「リーダーシップとニューサイエンス」英治出版