マルチカルチュラル人材の思考パターンと多国籍企業での活躍のあり方

ビジネス環境のグローバル化が進むにつれ、とりわけ複数の国にまたがって事業活動を行う多国籍企業では、複数の文化に精通したマルチカルチュラル人材(多文化人材)が重要な役割を担うと思われます。しかし、一口に多文化人材といっても、その人が経験した環境や現在おかれている立場などによって、思考パターンや能力、活躍が期待される場がかなり異なっているということを、Lücke, Kostova, Roth (2014)は指摘します。


Lückeらは、認知的な視点から、多文化人材の特徴を、(1)「区分型(Compartmentalization)」(2)「統合型(Integration)」(3)「包摂型(Inclusion)」(4)「収斂型(Convergence)」(5)「一般化型(Generalization)」に分け、それぞれのタイプが、本人の異なる経験や環境から形成されたものであり、それぞれ思考パターンが異なり、ゆえに得意とする分野が異なるといいます。とりわけLückeらは、異なるタイプの多文化人材マネジャーが、異なる形で多国籍企業のマネジメントに貢献できる可能性を論じています。


(1)「区分型」の多文化人材は、異なる文化を区分して、状況に応じて使い分けることができる思考パターンを持っている人材です。このタイプの人は異なった文化で生活する経験を有していますが、それぞれの文化を結合させる機会があまりなかったといえます。区分型の多文化人材は、異なる文化モードを使い分けることができるので、どちらの文化の人々にも深く入り込むことができます。ただし、このタイプのマネジャーは、片方の文化に深く埋め込まれた内容を、他の文化のものに瞬時に翻訳したりすることは苦手なため、文化に埋め込まれ例内標準的な知識(形式知)やスキルを異文化間で伝達することに長けており、そういった役割でマネジメント能力を発揮できる人材だとLückeらは言います。


(2)「統合型」の多文化人材は、異なる文化の思考モードを当時並行的に操ることができる人材です。区分型のように、異なる文化を切り替えるのではなく、ミックスして思考します。このタイプの人は、複数の異なる文化に同時に接するような経験をし、そこからこのような思考形態を見につけてきた人です。このタイプのマネジャーは、複数の文化に精通し、かつそれらの間を瞬時に行ったり来たりできるため、異なる文化に埋め込まれた暗黙知的なものを異文化間で伝達することが可能です。かつ、複数の文化的特徴を組み合わせたイノベーションを起こしたりするような活躍が期待されるとLückeらは論じます。


(3)「包摂型」の多文化人材は、1つの支配的な文化を拠り所とし、その文化的思考パターンに、他文化の特徴を包摂して拡張させている点を特徴としています。このタイプの人材は、1つの文化的環境で長く生活し、別の文化的環境での経験が比較的浅い場合に形成されます。思考パターンは単一文化的な人材に近いが、異文化の思考も理解できる人材です。このタイプのマネジャーは、本国企業の代表として海外に赴任し、本国の立場で海外拠点をマネジメントしたりする場合に適しているといえます。とりわけ、企業が本国で培われたカルチャーや戦略、制度を海外に浸透させたい場合にはこういった人材が威力を発揮するだろうと思われます。


(4)「収斂型」の多文化人材は、多くの文化に共通するようなものの考え方を思考する人材です。このタイプの人材は、多数の文化で生活した経験を持つが、各々の文化に深くは関わらなかったような人材なので、それぞれの文化の共通項を取り出すようなかたちで思考パターンを形成しており、それぞれの文化の深い部分を理解することは困難です。ただし、多くの文化に共通する要素を用いて、他の文化を理解することができます。このタイプのマネジャーは、ブリッジ人材として、複数の文化の共通項に着目しながら、お互いの橋渡しをするような役回りに向いているとLückeらは論じます。


(5)「一般化型」の多文化人材は、複数の文化の特徴を超越して、どの文化にも偏らず、どの文化でも通用するような思考パターンを持っている人材です。このタイプの人材は、複数のお互いに相容れないような文化的環境を経験してきており、そこから、どの文化でも通用するような思考パターンを発展させた人材だといえます。このタイプのマネジャーは、多くの文化についてよく理解できているうえ、特定の文化に偏らない思考ができるため、異文化的状況を全体的に俯瞰することができます。まさにグローバルな視点で考えたりマネジメントを行うことができる人材だとLückeらは言います。


このように、多文化人材といってもそれで人くくりにせず、様々なタイプがあることを理解したうえで、それぞれのタイプの特徴に応じて、多国籍企業内で適材適所を心がけることによって、彼らが持つポテンシャルを最大限に活用できると考えられます。

文献

Lücke, G., Kostova, T., & Roth, K. (2014). Multiculturalism from a cognitive perspective: Patterns and implications. Journal of International Business Studies, 45, 169–190.