社内事業創造人材はどのような特徴を持っているのか

戦後著しい成長を遂げてきた日本経済・日本企業ですが、これからの時代、これまで成功してきた日本の基幹産業だけでは、持続的な成長をもたらすことができないのではないかといわれています。つまり、日本の成長のためには、新しい事業や産業がつぎつぎと勃興しなければならないといえるのではないでしょうか。各企業においても「次世代の主力事業になるような新しい事業を創りたい」と考えるでしょう。このことから、企業内で、次の時代の基幹ビジネスになり得るような新しい事業を創造できる人材「=事業創造人材」についての研究がなされつつあります。


例えば、石原・白石(2011)は、事業創造人材については、イノベーション研究で指摘されるように本人が高い技術力を持っているかどうかについては問題にせず、「社会の求める新たな価値をデリバリーするプロセスを構築し、しかもそれを実際の収益に結びつける」人物を事業創造人材としたうえで、彼らの思考および行動特性について、「企業内でこれまでになかったやり方で新しい事業を立ち上げるか、海外への進出を主導した人物」15名に対するインタビュー調査を実施し、事業創造人材に特有の5つの思考特性と6つの行動特性を特定しました。


まず、5つの思考特性については、大きく「思想」と「行動規範」に分かれます。そのうち思想面については「良き社会への信念」「経験に裏打ちされた自負」を挙げています。一方、行動規範面については「強烈なゴール志向」「高速前進志向」「粘り強さ」を挙げています。これらの思考特性は、それぞれ、6つの行動特性へとリンクしています。良き社会への信念は、「常識の枠を超える」行動特性につながっています。強烈なゴール志向は「手に入れる」「捨てる」という行動特性と関連があります。高速前進志向は「決める」「宣言する」という行動特性につながります。そして、粘り強さは「やめない」という行動特性と関連しています。


また事業創造研究会(2011)は、事業創造人材を「青黒い人」と表現しています。これは、新しい製品やサービスによってどんなふうに世の中が変わるのかを、理想論かもしれないが「青臭く語る」という「ソーシャル・ストーリーを語る」という要素と、それを持続的に実現するためには、どうやって利益をあげていくのか、どうお金を稼ぐのかを「腹黒く語る」という「ビジネス・ストーリーを語る」という部分を併せもった存在であるべきだと結論づけています。


さらに事業創造研究会は、事業創造人材は「グッドリーダー」とは違う側面を持っていることを指摘します。すなわち、事業創造人材は、グッドリーダーが持ち合わせている「部下のモチベーションの維持管理や成長サポート」はあまり行っておらず、「部下の成長」よりも「事業の成功」が重大な関心ごとであると述べています。いってみれば、事業創造人材にはある種の「偏り」があり、ゆえに「良いリーダー」とは言えないということになります。しかし、そうした偏りはときには「アクの強さ」として表出され、それが事業創造の成就につながる可能性も指摘しています。


事業創造人材は入社した時点からかなり革新的で破天荒な活動を行うと事業創造人材研究会は指摘します。そのため、決して扱いやすい人とはいえません。時として既存のルールを踏み越えたり、多くの人が口に出せなかった問題を発言したりするからです。とはいえ、事業創造人材は、あくまで組織の一員として入社してきた人々。彼らは、組織内において日々対峙しているルーティンワークの経験から多くを学んできたとも指摘しています。すなわち、日常の緩やかな問題意識や仕事を通じて感じた社会の不条理に対して「おかしい」と敏感に反応し、それを正すための行動を少しずつとり始め、そういった行動を積み重ねるうちに、その問題や不条理の解決こそが自身の使命だと確信し、それを新年へと昇華させるのだといいます。


このように、事業創造人材は、類まれなる学習能力と跳ねっ返りな存在で、経験により成長を遂げてきた人物たちです。しかし、事業創造人材として頭角を現す人材はごく一部にすぎず、彼らの背後には、事業創造人材たりえた人材であったにもかかわらず、跳ねっ返りが強すぎたために、運悪くつぶされてしまった逸材がいたかもしれないと事業創造人材研究会は論じます。よって、これから事業創造人材を必要とする組織は、そういった人材を「探し」そして「つぶさない」ことが重要だと結論づけています。