流行の経営手法を導入すると企業業績は向上しないが経営者報酬は上がる

企業は、最新の経営手法、流行している経営手法に飛びつく傾向があります。例えば、近年では、「ビッグデータ」を活用することによって企業業績を高めようという動きがもてはやされています。人事の世界では、「グローバル人材」の育成が急務であると言われ、グローバル人材育成の成功事例が話題を呼んでいたりします。一昔前は、「成果主義」こそが、人事制度のグローバルスタンダードで、各企業が競争力を高めるために導入すべきものとして取り扱われていました。では、企業が流行の経営手法を導入すると何が起こるのか。ヴァンミューレン(2014)は、Staw & Esptein (2000)の研究を紹介し、この研究から得られた面白い発見を紹介しています。


StawとEspteinは、フォーチュン500企業のうち、100社をサンプルとして、調査当時に流行していた経営手法の利用の度合い(品質管理、チームワーク、エンパワーメント)および、トータル・クオリティ・マネジメント(TQM)の導入の有無と、経済的指標による企業業績(資産利益率ROA、株主利益率ROE、売り上げ利益率ROS)との関係、フォーチュン誌の「もっとも賞賛される企業ランキング」のランクデータ(総合評価、イノベーティブ評価、経営品質評価など)、そして企業のCEOの経営者報酬との関係を調査しました。その結果、以下のことが分かりました。


最初に、流行していた経営手法を導入することは、企業業績にあまり役立っていないことが分かりました。つまり、流行の経営手法は、企業業績を高めるわけではないということです。そもそも、企業が流行の経営手法を導入するときに、それが企業業績を高めるということに自信を持っていたか疑問です。他社がやっているから、コンサルタントが勧めるから、流行っているから、なんとなく良さそうだから、などの理由で安直に導入していたのかもしれません。そうであれば、特定の経営手法と企業業績にはロジカルな関係があるわけではないため、StawとEspteinの発見もうなずける内容といえましょう。


しかし、興味深いことに、流行の経営手法を導入することは、フォーチュン誌の「最も賞賛される企業ランキング」の向上に役立っていることが明確に分かりました。つまり、流行の経営手法を導入すれば、その企業は、イノベーティブであるとか、賞賛されるべきであるなど、社会的な評判を高めるといことが分かったのです。これは、流行の経営手法を導入する企業は、メディアに登場する頻度も増え、世間から注目を浴びることに関連しているといえましょう。ポジティブな意味でメディアに多く登場するようになれば、その会社は「素晴らしい会社」として世間的に認知される度合いも高まるというわけです。


さらに重要なこととして、流行の経営手法を導入することが、企業のCEOの経営者報酬を高めていることが分かったのです。通常は、経営者報酬は、企業の経済的な業績とリンクするべきだと考えられますが、なぜ、流行の経営手法の導入が経営者報酬を高めるのでしょうか。StawとEspteinは、企業において経営者報酬が決定される際、取締役会のメンバーは、企業の世間的な評判がどれくらい高まっているのか、そして実際に流行している経営手法を導入しているのかどうかに影響されるのだろうと考察しています。流行の経営手法を導入している企業の経営者は、イノベーティブで尊敬されるべき存在だと思われるのでしょう。


StawとEspteinの研究は、流行の経営手法を導入することは、少なくとも企業の経営者にとってはメリットがあるということを、ある意味皮肉的な形で実証した研究だといえましょう。

参考文献

フリーク ヴァーミューレン 2013「ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実」東洋経済

Staw, B. M., & Epstein, L. D. (2000). What Bandwagons Bring: Effects of Popular Management Techniques on Corporate Performance, Reputation, and CEO Pay. Administrative Science Quarterly, 45, 523. doi:10.2307/2667108