企業は「スター社員」をどのように理解し、どのように活用すればよいのか

企業に対して並々ならぬ価値をもたらす「スター社員」「エース社員」「看板社員」などと呼ばれる社員の存在は、企業業績に大きく影響します。業界によっては、少数のスター社員が企業収益の大半をたたき出すことさえ考えられる時代です。したがって、スター社員を獲得し、活躍を促進し、維持することは企業にとっては大きなメリットでしょう。では、スター社員はいかなる特徴を持ち、いかなる形で価値を生み出すのでしょうか。それらの理解は企業にとっても重要です。これに関して、Kehoe, Lepak & Bentley (2016)は、スター社員を複数のタイプに分類し、それぞれのタイプの特徴についての理論を構築しました。


Kehoeらによれば、スター社員は、担当する仕事において並外れた業績を生み出す社員として、もしくは、とりわけ企業外部から見て有名であるという意味での高い外部ステイタスを有する社員として理解することができます。つまり「高業績」と「ステイタス」がスター社員を理解するうえで鍵となる概念になります。Kohoeらは、高業績とステイタスの組み合わせかたによって、スター社員を複数の異なるタイプに分類しています。高業績とステイタスは、高業績がステイタスを高め、またステイタスが高業績に結び付くといったように相互に影響を及ぼしあう要素ではあるのですが、すべてのスター社員が高業績とステイタスの両方を兼ねそろえているわけではなく、どちらか片方のみ備えているというケースも含めてスター社員を理解しようとするのです。


まず、最も代表的なスター社員として挙げられるのが、担当職務で並みならぬ業績を生み出し、かつ外部から有名でステイタスも高いという「ユニバーサル・スター社員(universal stars)」です。つまり、「高業績」と「ステイタス」の両方を兼ねそろえた社員です。このような社員が生まれる理由は、高業績を生み出し続けたゆえに外部にも知れ渡る存在となった場合や、外部ステイタスが高いために外部資源へのアクセス面で有利であり、それが高業績に結び付くケースなどがあります。ユニバーサル・スター社員は、担当職務での高業績を通じて「直接的な」価値を企業にもたらすのみならず、外部ステイタスが高いために企業外部の重要な資源にもアクセスしやすかったり、有名であるがゆえに企業に多くの顧客を引き付けたり、周りの社員のロール・モデルや指導・助言を行うような影響力を発揮することによって「間接的に」企業に価値をもたらすことができる社員です。


スター社員の2つ目のタイプは、外部からの認知度やステイタスは高くないものの、企業内での担当職務で並みならぬ業績を生み出す「高業績スター社員(performance stars)」です。この手の社員の外部ステイタスが高くない理由は、例えば担当職務の高業績が外部に認知されにくい業種や職種である場合(内部ではよく知られる人材となるが外部では無名)や、まだキャリア初期であるために、まだ外部には知られていない状態(今後高業績が蓄積されれば外部に知られる存在となる)であることなどが考えられます。高業績スター社員は、自らの担当職務における並外れた高業績や、周りの社員への見本の提示、指導・助言といった影響力を通じて会社に価値をもたらしますが、外部ステイタスが低いために、外部資源のアクセスや、外部顧客の獲得などを通じた価値創造は十分にできない社員です。


スター社員の3つ目のタイプは、担当職務では並外れた業績を上げているわけではないが、外部によく知られており、外部ステイタスが高い「ステイタス・スター社員(status stars)」です。Kehoeらは、このタイプの社員をさらに3つのタイプに分類します。最初は、「後光スター社員」で、本人が、なんらかの著名な人物、有力人物、エリート人物や組織と強いパイプで結ばれていたり、多大な支持を得ていたりするがゆえに高いステイタスを得ているような社員です。例えば、親族の中に有力な人物がいたりするケースです。彼らは主に、外部資源への良好なアクセスを通じて企業に価値をもたらすことができる社員であり、かつ社内で他の社員に対する影響力を通じた価値提供も可能です。


次に、過去にユニバーサル・スター社員だった人物が、その後だんだんと業績をあげなくなることでステイタス・スター社員にシフトしてきた「元ユニバーサル・スター社員」です。この手の社員の例として、過去に素晴らしい業績をあげたがすでにその旬をすぎたベテラン社員や、業績そのものよりも別の方面で価値をあげようとする社員が挙げられます。このような社員も、外部から知られた存在であって、かつ経験が豊富なゆえに、外部資源へのアクセスや他の社員への影響力を通じて企業に価値をもたらします。最後に、本人の優れた外部人脈形成力によって、外部ステイタスを高めることに成功した「外部人脈型スター社員」がいます。このタイプの社員もやはり外部資源へのアクセスや他の社員への影響力を通じて企業に価値をもたらすことができます。総じていえば、ステイタス社員は、自分自身が担当職務で高業績をあげるのとは別の間接的なプロセスで会社に価値をもたらすということが言えます。


では、これらの異なるタイプのスター社員はどのような行動特性を持っており、企業は彼らをどうマネジメントしていけばよいのでしょうか。これに関して、Kahoeらは、彼らがスター社員で居続けられる安定性や、会社に対する交渉力や、企業内の他の社員や資源との補完性や冗長性を理解することが有用であることを示唆します。まず、高業績もあげられ、かつ外部ステイタスの高いユニバーサル・スター社員は、他のスター社員よりもスターであり続けることができる安定性を有しています。また、守備範囲の広いスター社員、および自分自身の強みが弱まってもすぐに再生させる能力をもったスター社員が安定しています。また、外部ステイタスの高いユニバーサル・スター社員やステイタス・スター社員は、報酬や雇用条件などの交渉力が強いため、企業から見れば、多くの価値を相手に持っていかれるような存在です。つまり、これらのスター社員は、企業に多大な価値を生み出してくれるのですが、その多くの部分を彼らへの高額な報酬などによって還元する必要があるということです。


上記の特徴を踏まえて考えるならば、スター社員は、自分自身がスターであり続けられる安定性を得られるのであれば、また、自分自身がより多くのメリットを獲得することできるならば、積極的に企業内の他の人材や資産との相互補完的な関係性を築いていこうとするでしょう。例えば、企業内の他の人材や資産とのシナジー効果によって価値を生み出していくような方向です。ただし、ユニバーサル・スターのように安定度が高いスター社員で、かつ相互補完的な関係を築いていくことが自分自身の市場価値や転職可能性を狭めるように思われる場合には、彼らは補完的な関係には積極的な投資は行わないでしょう。また、企業は、同じタイプのスター社員を複数抱えるなどをすることによって、スター社員が自発的に離職してしまったりしたときのダメージを小さくしたりできるでしょう。しかし、このような施策はスター社員の冗長性を生み出すことにつながります。冗長性が高まると、スター社員の固有の価値が減少したり、お互いに危機感を持ったりするなどによって、必ずしもスター社員×2に相当するだけの価値が会社にもたらされるわけではないということもいえることをKehoeらは指摘しています。

文献

Kehoe, R. R., Lepak, D. P., & Bentley, F. S. (2016). Let’s Call a Star a Star Task Performance, External Status, and Exceptional Contributors in Organizations. Journal of Management, 0149206316628644.