リーダーシップの人相学はどれだけ正確か:卒業アルバムの顔写真からリーダーとしての成功を予測する

人間の顔の特徴からリーダーとしての成功を予測することができるかという問いに真面目に答えようとした研究があります。いってみれば、リーダーシップの人相学です。結論の一部を先取りすると、なんと、大学の卒業アルバムの顔写真から、数十年後のリーダーの成功を有意に予測できることを示唆する研究結果が出たのです。


そもそも、人相学と聞くと、占いのようであやしいものだと思うかもしれません。しかし、私たちは、他人の顔を一目見ただけで、かなり正確にいろんなことを判断できる能力を備えています。例えば、私たちは、人の顔の表情から、うれしいのか悲しいのか、怒っているのかなど、その人の感情をかなり正確に言い当てることができます。なぜならば、人間の感情表現には普遍性があり、人間は進化の過程でその感情表現を瞬時に読み取ることができる生得的な能力を身に着けているからです。私たちは人相からその人の性格も言い当てられる能力を持っているといえます。例えば、常に笑ってすごしてきた人は、笑いにかかわる特定の顔の筋肉が発達してにこやかな表情になっているのに対し、常に怒ってきた人は、怒りにかかわる筋肉を発達させるので、怒りっぽそうな顔になっていると考えられるからです。


RuleとAmbadyらの研究チームは、このような観点から、リーダーの人相から、彼らのリーダーとしての成功度合い、例えば、会社の利益などを予測することが可能かに関する科学的な研究をいくつか実施してきました。彼らが拠り所にしたロジックは、リーダーとして成功するための特定の性格特性が存在し、顔の特徴からその性格特性が予測できるのであれば、結論として、リーダーの顔からリーダーの成功を予測できるというものでした。


まず、Rule & Ambady (2008)の研究では、アメリカのフォーチュン500企業のウェブサイトから収集した50人のCEOの写真をできるだけ均質にして、ランダムに大学生に提示し、顔写真からその人の性格を判断してもらいました。その結果、大学生は顔写真から「貫禄(有能さ、支配的、成熟性)」と「暖かさ(好意的、信用できる)」という大きく分けて2つの性格特性を判別し、その判断は学生同士である程度一致していました。そして、この2つの性格特性と企業業績の関係を調べたところ、学生が判断した「貫禄顔」と、企業利益に有意な相関がみられたのです。これは、例えば容姿の魅力度など、他に考えられる要因を統計学的に割り引いたあとでも有意でした。 なお、「暖かみのある顔」と企業業績との相関はありませんでした。


次に、Rule & Ambady (2011a)の研究では、アメリカのトップ100の法律事務所の最高経営者(マネージング・パートナー)について、現在の顔のみならず、彼らの学生時代の顔写真も使いました。具体的には、Rule & Ambady (2008)と同様にウェブサイトから集めた写真を用いてたものと、彼らの卒業アルバムからスキャンしてきた顔写真を用い、それぞれ別の大学生のグループに彼らの性格特性を判断してもらったのです。その結果、卒業アルバムの顔写真からでも、現在の顔写真からでも、学生たちが判定した「貫禄顔」は、その最高責任者が経営する法律事務所の利益と有意な相関が見られることがわかりました。大学時代の顔写真からも同じ結果が得られたことについて、RuleとAmbady は 、大学生のときまでに形成された顔つきは、その後大きくは変化しないためではないかと推論しています。


しかし、日本では、これまで紹介してきたような証拠は見つかっておりません。実際、Rule, Ishii & Ambady (2011)の研究では、アメリカと日本において同様の研究を行い比較を行っています。その結果、日本でも、社長の顔写真からある程度一致するかたちで性格の判断ができるものの、アメリカとは異なり、判断された性格と企業業績との有意な関係は見いだせませんでした。Ruleらは、このような結果の原因として、とくにアメリカにおいては、権力、支配力がリーダーとしてのイメージや実際のリーダーシップと相関しているが、日本では必ずしもそうではないからではないかと推測しています。アメリカでは、「貫禄顔」の人は、実際に権力や支配力を得やすい性格であるため、あるいはそのような顔をしている人のほうがリーダーっぽいので実際にリーダーに選ばれやすく、リーダーとしての経験を積みやすいからではないかと論じられています。


リーダーシップというのは、人間だけに当てはまるものではありません。サルなどの動物にも見られます。そうなると、実は、人間というのは、サルなどから進化してきたプロセスのなかで、顔や体の特徴から、だれがリーダーなのかを瞬時に判別する生得的な能力がそなわっているのかもしれません。

参考文献

Rule, N. O., & Ambady, N. (2008). The face of success inferences from chief executive officers' appearance predict company profits. Psychological Science,19(2), 109-111.

Rule, N. O., & Ambady, N. (2011a). Judgments of power from college yearbook photos and later career success. Social Psychological and Personality Science, 2(2), 154-158.

Rule, N. O., & Ambady, N. (2011b). Face and fortune: Inferences of personality from Managing Partners' faces predict their law firms' financial success. The Leadership Quarterly, 22(4), 690-696.

Rule, N. O., Ishii, K., & Ambady, N. (2011). Cross-cultural impressions of leaders’ faces: Consensus and predictive validity. International Journal of Intercultural Relations, 35(6), 833-841.