パーパス経営による自走型組織の作り方

森田(2022)は、経営者が細かく指示をしなくても社員が主体的に行動し、事業を前進させていくような組織を「自走型組織」と呼び、自走型組織を作ることは経営者にとって1つの理想であるといいます。自走型組織を支えるのは、自立型・自律型社員です。ただ、それほど簡単に自走型組織を作ることはできないともいいます。では、どのようにすれば組織が自走型になっていくのでしょうか。これに関して森田は、組織が自走型になるための条件は、「組織に心理的安全性があること」「実現したいと心から思えるビジョン」「循環的に物事を捉え、本質を見るためのシステム思考」「互いに傾聴し合う質の高い対話」だといいます。そして、自走型組織を作るためには「幹部の育成」「キーパーソンとなる現場リーダーの育成」「一般社員の意識改革」というシンプルで実践的な3つのステップを実践することが必要だと説きます。

 

森田によれば、上記の3つのステップを実践していくためには、実現したいと心から思える経営ビジョンの明確化が必須であることを示唆します。今流行りの言葉でいうのであれば、企業の究極的な存在意義としての「パーパス」の明確化ということでもあるでしょう。つまり、パーパス経営の実践は、自走的組織を作っていく1つのステップであるとも考えられるわけです。パーパスが明確化され、組織内でシェアされているならば、自走型社員を支える自立型・自律型社員は、そのパーパスと自分自身の仕事やミッションとをすり合わせることで、自分の仕事・役割を通してパーパスを実現したいという自発性と、その源としての「情熱」が生まれるのだと森田は言うのです。

 

そして、上記の1つ目のステップである「幹部の育成」において、ビジョンの共有、あるいはパーパスの共有を図ることを森田は強調します。共有されたビジョンとは、強い共感を呼ぶようなビジョンをトップダウンで共有してもらう場合もあれば、「あなたはどうなりたい?」と聞いてみんなの意見を集約して共有されたビジョンもあります。ビジョンの共有を通じた幹部の育成が第1ステップであるわけですが、なぜ幹部の育成から始めるかというと、最終的に全社員を巻き込むにしても、そのために幹部の育成を先に進めていくことが変革をスムーズにするからだと森田はいいます。いきなり一般社員から育成するよりも、幹部を育成する方が取り組みやすく育成しやすいのです。ビジョンを共有し、経営の視点から自分ごととして考え、部下を育成するスキルとマインドを持った幹部が育成されることが、自律型組織を作る最初のステップだということです。

 

次のステップが、幹部と現場をつなぐ「キーパーソン」としての現場リーダーの育成です。企業が明確に示すビジョンやパーパスは、社員の自発性の基盤となるものですが、企業の全社員がビジョンやパーパスに共感するような状態にまでビジョンやパーパスを浸透させるために欠かせないのが、キーパーソン社員としての現場リーダーだと森田は言うのです。なぜ現場のキーパーソンが必要かというと、キーパーソンが変革を推進していくための起爆剤となること、キーパーソンが経営者をさらに成長させてくれる存在となることを森田は挙げます。キーパーソンは、未来の組織を作っていくエース社員です。今後どのように変化してくれるかという未来志向でキーパーソンを特定するのが良いと森田は示唆します。キーパーソンは組織の変革に前向きで、他者に働きかけ、自ら行動する人です。

 

組織変革には「多様な全体を巻き込む(ホールシステム・アプローチ)」「前向きに思考し、行動する(ポジティブ・アプローチ)」「変化に柔軟に対応し続ける(ジェネレイティブ・アプローチ)」の3つの基本思想があると森田は指摘します。これらの3つの基本思想をキーパーソンと一緒に経営者が学ぶことは、組織変革を進めるのにとても効果的だと森田はいいます。

 

そして、自走型組織をつくるための最後のステップが、社員一人一人の意識改革です。ここでは、モチベーションにつながる社員の感情を重視することや、上司と部下の関係性の重要性、心理的安全性(組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発信できる状態)、創造的で質の高い対話の重要性を指摘しています。

参考文献

森田満昭 2022「社員が自ら考え、動く 自走型組織の作り方」幻冬舎文庫