パーパス経営を成功させる経営指標とはどんなものか

組織マネジメントの観点から見た場合にパーパス経営の成否を握るのは、組織で働く人々がそのパーパスを自分ごととして捉えてその実現に向けたモチベーションを高めることができるか否かだと言えましょう。そして、それが可能となる条件は、企業のパーパスやミッションと、自分が日常やっている仕事とのつながりがクリアになり、自分の担当している仕事が真に重要であると納得でき、その結果として「仕事のやりがい」を感じることができることです。すなわち、企業の存在意義であって究極的な目的であるパーパスもしくはミッションが、組織で働く人々一人ひとりの仕事のやりがいという形でリンクしていることが重要なわけです。

 

Beer, Micheli, & Besharov (2021)は、上記のように企業のミッションと働く個人の仕事のやりがいをつなげる重要な媒体もしくは経路として、経営指標のあり方、経営指標を用いた実践の仕方に着目しました。企業経営を行っていく上で経営指標は必要不可欠です。これまでにも、KPI(重要業績評価指標)やBSC(バランススコアカード)などの経営指標が提唱されてきています。ただし、パーパス経営を成功させるような経営指標のあり方やその運用の仕方と、パーパス経営を失敗させるような経営指標のあり方やその運用の仕方があるだろうということなのです。これに関してBeerらは、実在する企業2社の詳細な質的研究を実施することで、以下のような発見を行いました。

 

まず、Beerらは、経営指標が働く人々の仕事のやりがいを高めるか否かについての3つの要素(経路)を特定しました。1つ目は「実践的経路」で、経営指標の実践のあり方が仕事のやりがいに影響するという経路です。2つ目は「実存的経路」で、経営指標の中身が仕事のやりがいに影響するという経路です。3つ目は「関係的経路」で、経営指標の絡む対人的相互作用が仕事のやりがいに影響するという経路です。これらの3つの経路がうまく働く場合、仕事のやりがいが高まり、これらの経路がうまく働かない場合、仕事のやりがいは高まらないということになります。

 

実践的経路では、経営指標を測定したり報告したりする実際の運用場面において働く人々の負担が大きかったり、実際に測定して提供される指標が、人々の働きぶりを改善することにあまり役に立たなかったりする場合、人々は、自分の仕事が役に立っているのか、うまく進んでいるのかが分からないだけでなく、経営指標の運用が自分の仕事の邪魔になるため、仕事のやりがいを高めることに繋がりません。一方、経営指標の測定や運用が、人々が日常行っている仕事の進捗に関する有意義な情報を提供し、本人の学習や成長を促したり、仕事ぶりを改善することに役立つ場合、本人は、重要かつ価値のある仕事を実践できていることが実感できるので、仕事のやりがいが高まります。

 

実存的経路では、そもそも経営指標で測定している内容が、企業のミッションが実現できているのかどうかに関する情報を提供しない場合、あるいは、組織で働く人々が、企業のミッションの実践に貢献できているのかどうか分からない場合には、人々は企業のミッションの実践度合いが分からないのと、それに対する自分自身の貢献が分からないので、仕事のやりがいが高まりません。一方、経営指標が、企業のミッションが実践できているかどうかの進捗度合いを的確に示すような指標である場合、そして、その進捗に人々が貢献している度合いが示されている場合には、人々は日常で自分が行っている仕事と企業ミッションの実践とのつながりが明確になるので、仕事のやりがいが高まります。

 

関係的経路では、経営指標の作成やその運用において、組織で働く人々からのインプットや対話が許されず、淡々と測定や報告が行われる場合、組織で働く人々は、組織ミッションの実現度合いの測り方や、運用の仕方、結果の解釈などにおいて自分達の意見が反映されないため、自分達は組織からあまり尊重されてないと感じます。よって、仕事のやりがいが高まりません。一方、経営指標の作成や運用において、組織で働く人々の発言機会が多く、彼らの意見が取り入れられ、運用においても、結果を見た上でどうすれば良いのかの人々の対話が活発化したりするならば、組織で働く人々は、仕事を通じて企業ミッションの実現に積極的に関与・参画しているという意識が高まるため、仕事のやりがいが高まります。

 

以上をまとめると、Beerらが明らかにしたのは、パーパス経営、ミッション経営を成功させるための経営指標というのは、単に何を測るか(それも当然大切であるが)だけの問題ではないということです。何を測るかというのは、Beerらによる実存的経路に相当するわけですが、それだけでなく、どう測り、どうそれを使っていくのか(実践的経路)、指標の作成や運用のプロセスで、組織内において積極的な対話や意見交換がなされるか否か(関係的経路)、そしてそれが経営指標や経営そのものの改善に活かさせるかどうかが大事だということなのです。

参考文献

Beer, H. A., Micheli, P., & Besharov, M. L. (2021). Meaning, Mission, and Measurement: How Organizational Performance Measurement Shapes Perceptions of Work as Worthy. Academy of Management Journal. https://doi.org/10.5465/amj.2019.0916