サバティカル(長期休暇)がキャリアに与える可能性

近年、世界的に多くの企業で、サバティカル、いわゆる長期休暇制度の導入が進んでいます。サバティカルは、大学などにおいて研究に専念させるための長期研究休暇制度だったのが、従業員にレフレッシュしてらうための長期休暇として民間企業などに普及してきているという時代背景があります。長期休暇といっても、その期間や、期間中給与が支払われるのか無給なのかなど、いくつかのバリエーションはあります。ただ、サバティカルの取得が、働く人々の人生やキャリアにおいてさまざまな可能性を秘めているということを、Schabram, Bloom, & Didonna (2022)が独自の調査を通して明らかにしました。

 

Schabramらは、営利企業、非営利企業、官公庁などさまざまな職業に従事し、サバティカルを取得した50人への詳細な聞き取り調査を実施し、サバティカルが、3つの基本的なコンポーネントの異なる組み合わせのパターンで成り立っていることを発見しました。そのコンポーネントとは、「リカバリー」「探索」「実践」です。サバティカルを取得する人々の多くが、この3つから2つないしは3つの順序だった組み合わせでサバティカル期間を過ごすことを特定したのです。Schabramらは、これらの組み合わせのパターンにより、サバティカルのタイプを「ワーキングホリデー型」「フリードライブ型」「探求型」に分けました。

 

ワーキングホリデー型のサバティカルは、リカバリーと実践の組み合わせで成り立っています。まずはゆったりと過ごして疲れた心身をリフレッシュするのがリカバリーです。そして、リフレッシュできたら、仕事を実践します。リフレッシュと仕事をすることを繰り返すのは、休暇と仕事を両方行うようなものなので、ワーキングホリデー型と命名したのでしょう。ワーキングホリデー型のサバティカルは、ゆっくりと心身をリフレッシュし、十分なエネルギーを蓄えた上で元の仕事、職場に戻るというパターンが一般的で、特に新しいことを始めるとか、キャリアを大きく転換することはありません。

 

それに対して、フリードライブ型のサバティカルは、リカバリーと探索の組み合わせで成り立っています。これは、リフレッシュすると同時に、自分を振り返ってみたり、新しいことを試してみたりして、仕事に没頭して失われつつあった本来の自分を取り戻すとか、本来の自分にあった仕事とは何かを見直してみるとか、そのような試みにサバティカル期間を当てることになります。したがって、サバティカルが終わった後は、類似する仕事に戻ることが多いですが、全く同じ仕事に戻るのではなく、仕事の内容をアップデートしたりするなど、人生のさらなる充実に向けて再出発するような感じになります。

 

最後の、探求型のサバティカルは、リカバリー、探索、実践の全てを組み合わせたもので、多忙な仕事から離れてリフレッシュした後に、新しい自分や仕事探しの探索を行い、その後、新しいことを実践することにサバティカル期間を当てます。探求型のサバティカルは、これまでとは違う自分、これまでとは違う仕事といったように、本来の自分とは何か、自分にとって大切なものは何かを見つけ出し、それを実際にやり始めることで、サバティカル期間後に新しい自分に生まれ変わる、すなわち、これまでとは本質的に異なることをやり始める可能性が高いサバティカルとなります。

 

上記のように、サバティカルは、一定期間、これまで行ってきた仕事から離れることで、さまざまな機会を与えます。そのうちの1つが、自分や仕事を見つめ直し、新しい自分、新しい仕事を試してみることを通じたキャリアの変化、変容です。ただし、大きくキャリアを変化させるのは、リカバリー、探求、実践の3つを全て組み合わせた探求型のサバティカルであり、フリードライブ型は小さな変化にとどまることが多く、ワーキングホリデー型はほとんど変化しません。後者はどちらかというと心身のリフレッシュメントとエネルギーの最充填を目的とするようです。

 

このように、サバティカルと一口に行っても異なる種類があることから、サバティカルを取得する予定の個人も、サバティカルを与える組織も、このことを理解しておくことで、両者にとってより望ましいサバティカルが実現することでしょう。

参考文献

Schabram, K., Bloom, M., & Didonna, D. J. (2022). Recover, Explore, Practice: The Transformative Potential of Sabbaticals. Academy of Management Discoveries. 

https://doi.org/10.5465/amd.2021.0100

サバティカルとは? 休暇制度の効果やメリット・デメリット、導入時のポイントや導入事例について解説 | BizReach withHR