21世紀はスターパフォーマーの時代

よく知られている法則に、パレートの法則とか、80:20の法則があります。これを企業における社員のパフォーマンスでいうならば、企業利益の80%は、20%の社員がたたき出しているというように使われます。このような法則は、現実としてどれくらい真実味があるのでしょうか。これについて、AguinisとO'Boyle (2014)は、21世紀型の企業の場合、一握りのスターパフォーマー(スター人材)が企業の業績を大きく左右するということを示唆し、スターパフォーマーに注目することの重要性を主張します。


AquinisとO'Byoleによれば、20世紀は工業・製造業の時代であり、20世紀型の官僚的・ピラミッド型(階層的)の組織で工業を営むような企業の場合、従業員が生み出す価値は、正規分布に従うことを示唆します。つまり、ボリューム的にも多数派を占める平均的社員が、企業価値や企業利益の平均的なパフォーマンスを生み出しているという構図です。この場合、平均的な社員がいかにアプトプットを高めるか、すなわち平均的な社員の底上げを図ることが、企業業績を高めるカギとなることでしょう。そもそも、工業・製造業の場合は、機械を使って安定した品質の製品を生み出すことが重要であり、従業員のパフォーマンスにばらつきがあるのは好ましくありません。よって、従業員の仕事の自由度も高くないため、会社の業績を左右するような劇的なパフォーマンスを生み出す従業員は多くはないでしょう。


それに対し、21世紀は、製造業によく見られる官僚的・ピラミッド型の組織ではなく、ITなどの非製造業・サービス業などで見られるフラットで柔軟な組織であり、企業業績に重要なのは知識創造やイノベーションであるため、一部の突出した人材(天才、スター)が、劇的な製品やサービスを生み出すことによって企業業績を大きく高めるような場面が多く見られることをAquinisとO'Byoleは示唆するのです。つまり、従業員が生み出す価値は、正規分布ではなく、べき乗分布に従うと主張するのです。このような組織では、平均的な社員は企業利益や企業価値の小さな部分しか占めることができず、企業利益や企業価値の多くの部分は、トップ層の社員がたたき出すという構図になっていることでしょう。AquinisとO'Byoleは、保守的に見積もっても、企業価値の30%は従業員のトップ10%の層が生み出しており、企業価値の半分を従業員のトップ25%の層が生み出しているだろうと予測します。4分の1の社員が、企業価値の半分を生み出しており、残りの半分は4分の3の社員で生み出しているという計算です。


21世紀型の、スターパフォーマーが企業利益の多くをたたき出すような組織の場合、これらの人材が組織を離脱することは、企業業績に大きなダメージを与えることになります。よって、企業経営や人材マネジメントのあり方も、20世紀型のものとは大きく異なるはずです。先述のとおり、20世紀型企業の場合は、平均的な社員の底上げを図ることが企業業績を高める上で重要であったのに対し、21世紀型企業の場合は、スターパフォーマーをいかに獲得し、育て、彼らに活躍してもらい、彼らを引き止めるかが、企業業績を持続的に高めることにとって決定的に重要となりうるはずです。


20世紀型の企業では、ボリュームゾーンの平均的な従業員がいちばん納得するような人材マネジメントや報酬体系になっていることでしょう。例えば、年功序列的、安定的な賃金を考えた場合、ハイ・パフォーマーは、自分が生み出している価値に報酬水準が見合わないため、不満を抱いたり、よりよい労働環境や報酬を求めて退職してしまうかもしれません。しかし、20世紀型企業では、それはやむなしとしても、平均的な社員が頑張ってくれている限りにおいて、企業業績を大きく損ねることはないのです。しかし、21世紀型の企業がこのような人材マネジメントをやってしまい、スターパフォーマーの離脱を誘発してしまったら、企業業績を大きく損ねてしまいます。


21世紀型企業の場合は、企業業績の半分を生み出す、トップ4分の1の社員にとくに注意を払い、彼らを満足させ、彼にもっとも活躍してもらえるような人材マネジメントや報酬体系の構築を目指すことでしょう。この場合、平均以下のパフォーマンスしかあげられない社員は、トップ層への優遇に対して、相対的に不公平感や不満を抱くことでしょう。そうなると、彼らの離職が誘発される可能性があります。しかし、21世紀企業の場合は、それはやむなしとするのです。すべての従業員を均等に満足させることができないのであれば、どの層を大事にし、満足させ、引き止めるかの選択をしないといけないわけですが、20世紀型企業と21世紀型企業とでは、その対象が異なるということなのです。従業員が生み出す価値の分布が正規分布である20世紀企業の場合には、ボリュームゾーンである平均的な社員をもっとも大切にし、従業員が生み出す価値の分布がべき乗分布である21世紀企業の場合には、トップ層をより大切にする必要があるというわけです。

参考文献

Aguinis, H., & O'Boyle, E. (2014). Star Performers in Twenty‐First Century Organizations. Personnel Psychology, 67(2), 313-350.