「ニッポン株式会社モデル」からの脱却

日本的経営、日本的雇用慣行の成功と限界、そして弊害が指摘されるようになってからずいぶんと時間が経ちました。しかし、わが国の企業は、いまだに新たな経営、新たな人的資源管理のあり方を打ち出せずにいるようです。ネスレ日本のトップである高岡(2013)は、古くからある日本企業の経営を「ニッポン株式会社モデル」と呼び、それを国家と企業が抱える問題として、そこからの脱却の必要性を指摘します。そして、ニッポン株式会社モデルからの脱却は、人材がキーポイントとなると主張します。


高岡によれば、ニッポン株式会社モデルは、戦後の焦土からの復興モデルであり、年々人口が激増することを前提としたモデルです。しかし、労働力のコスト優位性がなくなり、人口増加もストップした1980年代後半のバブル絶頂期を過ぎると、急激に競争力を失うことになりました。成長の足かせになっているのがニッポン株式会社を支えてきた仕組みであり、その仕組みをどう変えるか、それを考え、迅速に実行することが必要だというのです。


高岡は、日本企業の最も深刻な問題は、状況を打破するイノベーションを起こせないことだといいます。厳しい環境にこそチャンスがあり、そこに既存の仕組みにとらわれない発想を持ち込めば、新たなイノベーションを起こすことは不可能ではない。しかしそれができない。ニッポン株式会社のモデルでは、米国などに「追いつけ、追い越せ」の発想で、日々の業務改善と新製品や新サービスの開発を行う「オペレーションのイノベーション」「製品やサービスのイノベーション」を実行しさえすればよかった。しかし、その上位で、業界のルールを変革するような「ビジネスモデルのイノベーション」、産業構造全体を変革する「構造的イノベーション」、そして人間が働く方法自体を新しくする「マネジメント・イノベーション」を実現できていないことを高岡は示唆します。


日本企業が高いレベルのイノベーションを起こせない理由は、日本人社員に多様性がないことだと高岡は指摘します。これはニッポン株式会社モデル時代の教育の所産でもあるとします。異なる多様な発想に触れるチャンスがない環境で育ってきたため、人と異なる発想を持つことに価値を見出せないというのです。さらに、多様性のない環境で育てば、リーダーシップが身につかないといいます。要するに、高岡によれば、ニッポン株式会社には、マネジャー(管理・監督者)はいるが、リーダーはいないのです。それは、日本の教育システムやニッポン株式会社モデルが、管理・監督者を再生産する仕組みになっていたからです。だから、イノベーションを起こすような人材は生まれず、リーダーシップを備えた人物を輩出する仕組みにもなっていないというわけです。


では、日本企業がイノベーションを起こしていくためにどうしていけばよいのでしょうか。高岡はまず、イノベーションを起こすためには、常に人と違うことをやる人材が必要だといいます。そして、リーダーシップに重要なのは、リスクヘッジしながら新基軸を打ち出す能力です。多くの人を束ねて自分が打ち出した考えをやらせるのではなく、自分の考えたこと、主張したことを「やって見せる」のが最低条件であるともいいます。また、リーダーは、仕組みを変革する前提となる「ビジョン」を語らなければなりません。そして、リーダーはリーダーが育てるという発想よりむしろ、新たなリーダーが次々と生まれてくる土壌を整えるようにするとういうのが正解に近いのではないかといいます。