戦略・事業・人材を連動させる組織能力開発とは

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)を初めとして、時代が大きく変化していく中で生き残っていくために組織を変革させていく必要性が高まっています。そこで欠かせない視点が、経営戦略・事業戦略・人材戦略の連動であり、それを実現するための組織能力開発です。デジタルトランスフォーメーション(DX)であろうが一般的な組織開発であろうが、戦略・組織・人材が連動していない状態から連動する状態に組織を変革していくのが、組織能力開発というわけです。土井(2023)は、この組織能力開発を「活動システムマップ(Capabilitiy & System Map; CASM)」を基軸として推進する方法について紹介しています。

 

まず土井は、ドン・ウォリックによる「組織開発とは、組織の健全性(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革してく、計画的で協働的な過程である」という定義を紹介し、企業が適切な戦略を持ち、その戦略の実行に際して前向きなエネルギーを引き出す組織の健全性が重要だと説きます。とりわけ、外部環境の激しい変化の中で、顧客を維持し、競合他社に負けないたえに絶え間ない自己刷新が求められることを強調します。とりわけ、組織は個人個人の集合体であるため、組織の能力は一人ひとりの社員に何ができるかに左右されます。事業開発、マネジメント、課題解決など、企業の成長に不可欠な人材を活かしきれなければ、組織全体がもつポテンシャルは十分に発揮できないのだと土井はいうのです。

 

組織能力開発では、とりわけ経営戦略、事業戦略、人材戦略の連動が不可欠です。土井によれば、会社全体として何を目指すのか、パーパスやビジョンを設定し、その実現に向けて事業ポートフォリオの組み換えを考えていくのが経営戦略です。組織能力は一人ひとりの力の総和であるから、個人のベクトルの合力であるといえます。つまり、一人ひとりのベクトルの向きをそろえることが大切です。そのためには、パーパスやミッション、ビジョンなど企業の理念を言語化して組織の目的や進むべき方向性を明確にすることが大切なのです。それと同時に、ベクトルの一本一本を長くすることも組織能力を高めるうえで重要です。効果的なトレーニングやリスキリングで能力を高めたり、エンゲージメント、成長意欲、貢献意欲を高めることも重要なのです。

 

経営戦略・事業戦略・人材戦略の連動の次のステップとして、自社の経営戦略から、それぞれの事業戦略に合わせた人材戦略を実現できるよう、各事業において人材戦略と事業戦略を連動させます。事業戦略では、各事業部がそれぞれの事業領域においてターゲット顧客と提供価値を言語化します。そこから必要な人材要件も導かれますが、事業に必要な人材の要件モデルの策定、募集、採用、育成、配置、処遇、代謝という人材のマネジメントサイクルに関して、事業部側と人事部側がそれぞれ検討する範囲をしっかりと定めることが極めて重要だと土井は強調します。

 

経営戦略、事業戦略、人材戦略を連動させるカギとなるのが、活動システムマップだと土井はいいます。そもそも、経営戦略、事業戦略を実現するために必要となるのが、組織能力とそれを発揮するための活動です。ターゲット顧客とターゲット顧客に対する提供価値を言語化し、自社独自の価値を顧客に提供するために行う一連の活動や必要な組織能力を活動システムマップに書き出していくわけです。活動システムマップの作成は新たな価値提供に必要な組織能力と活動を言語化・可視化するきわめて重要な作業だといえます。

 

活動システムマップを作成した次のステップは、一連の活動を現場で実践し新しい組織能力を社内に定着させることだと土井はいいます。つまり、新たな組織能力の開発と実装です。社員一人ひとりが確実に成果をあげられるよう、成果につながる行動(コンピテンシー)を開発するのが人材育成であるとすれば、組織として確実に成果をあげられるよう、戦略と紐づいた一連の活動を開発するのが組織能力開発であるというわけです。一連の活動を促進する組織の諸要素とは、業務プロセス・構造とガバナンス・情報と測定基準・人材と報酬・継続的改善の仕掛け・リーダーシップと組織文化であり、この6つを、パーパス、ミッション、ビジョンから導いた一貫した思想のもとに設計し、現場に落とし込むことで、世の中の変化に対応できる新たな組織能力を開発することができるのだと土井はいいます。

 

繰り返しになりますが、企業を変革していくためには、変革しようとする方向に組織の構成員一人ひとりの活動のベクトルをそろえる必要があります。新たなビジョンに向かって、戦略と一人ひとりの行動と、組織の仕組みが連動した状態を作ることが組織能力開発で、新たに必要となった組織能力と、組織能力を獲得するための活動を可視化・言語化するのが活動システムマップなのでです。組織能力開発によって、活動システムマップを基に組織を自走させるようにすることが重要であることを土井は示唆するのです。

参考文献

土井哲 2023「成果を出す企業に変わる 組織能力開発」幻冬舎