Jモードという大学と仕事の関係

日本における雇用慣行は、世界的に見ても特徴的な部分がいくつかありますが、その中でも最たるものが、新卒一括採用という慣行です。「ジョブなきメンバーシップ」を基本原理とする日本企業の雇用形態では、メンバーシップの入り口となる最も重要な採用活動が「新卒採用」であり、新卒採用においては、組織のメンバーとして、組織内のあらゆる仕事を担当する可能性をもった「総合職」として、あるいはあらゆる補助作業を担当する可能性をもった「一般職」、あらゆる技術系職務に携わる可能性のある「技術職」というような形で、採用します。


では、一般的に学校を3月に卒業して即座に4月から企業に入社して働く学生は、学校でどのようなことを学ぶことが企業から求められているのでしょうか。この点に関して、金子(2007)や本田(2009)は、日本独特の大学と仕事の関係を「Jモード」と呼ぶ説を紹介しています。


Jモードとは、大学入試が学生の基礎学力水準の指標を提供し、企業はそれを基準として大卒者を採用した後に、企業内で職業知識を実践的に習得させるというモデルです。日本では、ジョブを機軸とする採用ではなかったので、企業は学生に対して、特定の職務を遂行するための知識やスキルを求めてきませんでした。むしろ、基礎学力の高い社員を採用し、それらの社員に対し、OJTやジョブローテーションなどを駆使しながら企業特殊的な知識やスキルを教え込み、その企業固有の能力をもち、定年まで長期にわたって企業の発展に貢献してくれるメンバーを育てようという思想にのっとった雇用システムであったわけです。


したがって、企業が採用選考の基準とするのが、基礎学力や学習能力すなわち将来へのポテンシャルであって、それを測定しているのが大学入試だというようにも解釈できます。つまり、大学入試が、企業の人事採用の一次選考をやってくれているような感じで、企業が学歴を新卒採用の選考基準として考慮するのはそのためだと考えられるのです。