企業の人事管理と高業績人材、低業績人材の離職

アメリカのように雇用の流動化が進んでいる国では、従業員が自発的に離職する現象がよく見られます。企業としては、従業員の自発的離職が避けられないのであれば、高業績人材にはできるだけとどまってほしく、低業績人材に去ってもらうのが望ましいと考えるでしょう。


Shaw, Dineen & Fang (2009)は、企業の人事管理(HRM)と、高業績人材、低業績人材の離職パターンの興味深い分析を行っています。彼らが根拠にする枠組みは、従業員-組織間関係(Employee-organizaiton relationship: EOR)というものです。


企業の人事管理・人事制度は、従業員と組織との関係性(EOR)のあり方を象徴しています。EORは大きく分けると2つの要素で理解できます。1つは、組織が従業員に対して施す誘因や投資(inducements and investments)です。もう1つは、組織が従業員に対して抱く貢献度の期待(expected contributions from employees)です。つまり、従業員と組織の関係は、組織が何かを従業員に与え、従業員がそれに報いるという交換関係の図式で理解できます。


人事制度のコンポーネントでいうと、企業が積極的に教育訓練投資を行ったり、高い賃金水準を維持することは、従業員に与える誘因や投資を充実させる施策であると考えられます(HRM inducements)。それに対し、個人別の成果主義を強調することは、組織が従業員に対して要求する貢献を強める施策であると考えられます(HRM expectation-enhancing practices)。


企業の人事管理のあり方によっては、HRMの誘因・投資施策とHRMの貢献期待施策がバランスしている場合と、そうでない場合があります。前者が後者を上回る場合は、過剰投資モデル(overinvestment model)であり、逆の場合は過少投資モデル(underinvestment model)です。過剰投資モデルは、組織が従業員にたくさん与えるが、見返りとしての貢献をあまり期待しないHRMモデルであり、過少投資モデルは、組織が従業員にあまり与えないが多くの貢献を要求するHRMモデルです。


Shawらが仮説を立てて実証的に発見したことは次のとおりです。HRMの誘因・投資施策(inducements and investments)は多ければ多いほど、どのタイプの従業員も企業にとどまりたいと思い、少なければ少ないほど自発的離職を促します。それに対し、HRMの貢献期待施策については、強ければ強いほど、低業績の人材の自発的離職を促しますが、高業績人材の自発的離職は促しません。


よって、以下のような関係がわかります。企業がHRMの誘因・投資施策を減らせば減らすほど、従業員の自発的離職を増加させるが、一方でHRMの貢献期待施策を高めに維持していると、低業績の人材ほどたくさん離職するということになります。


企業のHRMの誘因・投資施策は、従業員に与える部分ですから、減らせば減らすほど従業員が離れていってしまうのはいたしかたないことですが、それでもできるだけ高業績人材のみ自発的離職を防ぎたい場合には、貢献期待施策を高めに維持しておくことがよいという結論になるようです。

文献

Shaw, J. D., Dineen, B. R., Fang, R., & Vellella, R. F. (2009). Employee-organization exchange relationships, HRM practices, and quit rates of good and poor performers. Academy of Management Journal, 52, 1016-1033.