人事管理上重要な従業員と組織との交換関係

企業の人事管理を考えるうえで重要になってくる枠組みとして、従業員と組織との交換関係があります。学術的には、Employee-organization relationship (EOR)と呼ばれます。


結局のところ、個人と組織との関係は、何かを与え合う交換関係にあるということです。だからこそ、個人と組織とは安定的な関係が築けるのです。組織が個人にそこで働くことを魅力的にする誘因を与え、個人がそれを得るひきかえに、組織に貢献するという構図です。


Tsuiら(1997)は、企業の人事管理やその他の施策に反映されるEORに関して、4つの異なるタイプを見出しました。最初の2つは、企業からの誘因と、それと引き換えに個人に期待する貢献とがバランスしているモデルです。後の2つは、両者のどちらかが片方を上回り、バランスしていないモデルです。


擬似スポット契約(Quasi-spot contracts)とは、企業からの誘因も、期待される貢献も、範囲が狭く限定されているバランス関係です。例えば、明確に定義された職務をやってもらうために、それに応じた明確な賃金を支払うという関係に終始するようなモデルです。企業は、明確に定義された職務の遂行以上の貢献を従業員に求めませんし、職務を遂行してもらうことによる見返りとしての賃金を支払う以上の便益を従業員に与えることもしません。よって、従業員と組織がお互いに深く関わりあうことがなく、金銭など、経済的な交換関係に限定されがちになります。


逆に、相互投資型(mutual-investment EORs)は、企業は幅広くかつ深い誘因を従業員に与える代わりに、従業員には幅広いコミットメントを期待するモデルです。例えば、手厚い報酬、福利厚生、長期的な視点からの教育訓練といった手厚い誘因を企業が行う一方、従業員は担当職務を超えた幅広くかつ長期的なコミットメントや忠誠心をもってそれにこたえます。従業員と組織がお互いに深く関わりあうため、信頼関係が醸成され、経済的交換のみならず、社会的交換関係も充実してきます。


アンバランスなEORについては、組織が与える誘因が、従業員に期待する貢献を上回る過剰投資モデル(overinvestment model)と、逆に、組織が与える誘因よりも、組織が従業員に期待する貢献が大きい過少投資モデル(underinvestment model)に分かれます。前者は一般的には従業員に多くを与え、その見返りをあまり求めないため、従業員から喜ばれるでしょう。逆に後者は、従業員に求める貢献が大きいのに、誘因が小さいため、従業員から見ると厳しい環境だと考えられます。

文献

Tsui, A.S., Pearce, J.L., Porter, L.W. and Tripoli, A.M. (1997). Alternative approaches to the employee-organization relationship: does investment in employees pay off? Academy of Management Journal, 40, 1089–1121.