テンポラル・モティベーション理論

モティベーション研究で有名な古典的な理論として、期待理論があります。期待理論は端的に言えば、努力した結果、望ましいものが手に入る主観的な確率が、その人のモティベーションの強度を決定するというものです。最近、この期待理論をサブコンポーネントとして含み、かつ時間概念や欲求概念など、より複雑な要因をも組み込んだ統合理論が考えられました。


その統合理論の提唱者であるSteelとKonigは、テンポラル・モチベーション理論(temporal motivation theory: TMT)と呼んでいます。この理論は、微小時間経済学(picoeconomics)、期待理論(expectancy theory)、蓄積的プロスペクト理論(cumulative prospect theory: CPT)、欲求理論(need theory)を統合したものです。そのときそのときのモチベーションの度合いを決定付ける要因を理解するための理論です。


テンポラルモティベーションは、期待および価値、時間的遅延、利得と損失、欲求の要素によって構成されています。ある特定時点でのモティベーションは、その人が何か行動をしたときに起こりうる結果の主観的確率とその人がその結果に見出す価値によって増大するが、その結果が起こる時間が遅延することが見込まれればモティベーションは減少し、かつ、起こりうる結果が利益なのか損失なのかによってモティベーションの変動の仕方は異なるというものです。


もう少し詳しく説明しましょう。まず、期待理論が示すように、ある行動を起こした場合に結果が起こりうる主観的確率と、その結果に見出す価値によって、モティベーションは増減します。例えばある行動を起こしたときに、自分にとって利益となる結果が得られる確率が高まればやる気が出るし、低ければやる気がでません。また、自分にとって損失となる確率が高まると、その行動を回避しようとするモティベーションが高まります。


そこに、時間的要素が絡んできます。行動経済学や微小時間経済学が示すように、その行動によって起こる結果が遅延すれば、同じ価値の結果であっても魅力度が低減します。例えば、いま努力しても、得られる利益が1年後であったりすると、1ヵ月後に同じ価値の利益が得られる場合と比べて、モティベーションは下がるわけです。


ある行動によって引き起こされる可能性のある結果には、自分の利益となる結果もあれば、損失となる結果もあります。モティベーションの決定場面で、これらの両方が考慮される場合、プロスペクト理論が示すように、行動の結果、利益が得られるケースと、損失が得られるケースでは、モティベーションに与える影響の変動のパターンが異なります。基本的に、利益が増加していく予想に対しては、モティベーション増大の感度が下がります。損失が拡大していく予想に対しては、それを回避しようとするモティベーションの感度が鈍くなります。


また、欲求理論から、時間の遅延に対するモティベーションの低減効果には個人差が出てくることが反映されます。


テンポラル・モティベーション理論によって、これまで以上にモティベーションに関する理解が深まりそうです。例えば、なぜ学生が期末レポートづくりのモティベーションが上がらず、十分早い時期から採りかかれないか。締切り間際になってモティベーションが高まることがわかっているのに。また、従来の目標設定理論以上に、どのような目標を設定するのが望ましいかの議論にも示唆を与える可能性があるでしょう。

文献

Steel, P.,& Konig, C.J. (2006). Integrating theories of motivation. Academy of Management Review, 31, 889-913.