一流企業とセレブ企業はどう違うのか

近年の組織論や戦略論では、企業の競争力を生み出す重要な資産として「無形資産」に注目します。たとえば、製品ブランドは、企業の売り上げや利益に貢献する無形資産であると考えられます。Pfarrer, Pollock & Ridova (2010)は、「企業の評判(reputation)」と、「セレブ性(celebrity)」を、それがあることで企業がさまざまなメリットを享受できる無形資産だと考えます。ただし、この2つの無形資産は、それぞれ異なる特徴をもっているがゆえに、得られるメリット(もしくはデメリット)は異なると考えました。それがどう違うのかを、企業が業績予想を上回る(下回る)業績を報告するという「サプライズ報告」の度合いや、それに対する投資家の反応というかたちで理論化し、経験データを使って実証しました。


Pfarrerらによれば、高評判企業を、わかりやすく「一流企業」と表現するならば、それは、過去の一貫して優れた実績が、顧客や投資家やその他のステークホルダーらに認められることによって形成される評判だと考えます。つまり、一流企業というのは、企業の実力や経営品質に対する裏づけがあって、それがゆえに将来も望ましい業績を生み出すと予想される企業として認識されていると考えるのです。一方、セレブ性といのは、特定の企業が並外れた行動や存在であるがゆえに、メディアなどによって主役として持ち上げられることによって形成される、感情的要素を多く含む特徴であると考えられます。評判とセレブ性のこういった特徴の違いが、企業が投資家の期待を裏切る業績報告をする度合いや、それに対する投資家の反応についての異なる予測につながると考えるわけです。


評判とセレブ性は、ともに企業の競争力に影響を与える無形資産だと考えられるので、共通している点としては、業績予想を上回るサプライズの場合は、投資家からより大きな評価を得ることが可能で、業績を下回るサプライズの場合も、投資家から寛容に受け止められるというメリットがあると考えられます。ともに、将来有望な企業だと考えられているからです。つぎに、評判とセレブ性の違いですが、一流企業(高評判企業)の場合、過去における一貫した好業績という裏付けがあります。したがって、そういった企業の業績予想と、実際の業績報告とは乖離が少ないと考えれます。つまり、一流企業は予想外に良かった、予想外に悪かったというサプライズが少ないと考えられます。一方、セレブ企業は、過去の業績に基づいてではなく、将来性について感情的な興奮を伴って支持されている企業であり、かつ並外れた行動をとる企業なので、業績に関しては、確実なバッティングではなく、「ホームラン」や「空振り三振」が多くなりがちです。したがって、しばしば業績予想を大きく上回ったり、大きく下回るようなサプライズが起こったりすると考えられるのです。


では、業績予想を裏切るサプライズ名業績報告があった場合の投資家の反応についてはどうでしょうか。まず、予想以上に高い業績であるというサプライズの場合について見てみましょう。一流企業の場合、一般的に投資家は一貫した好業績を期待しており、予想もあまり外れないと考えていますから、大きく予想を外れた場合には評価が高まるとともに、予想と一致しないことに対して多少の心地悪さを伴うでしょう。それに対して、セレブ企業を見る投資家の目は、どちらかというとサプライズを待っている感があります。よって、業績予想を大きく上回る業績が報告されたならば、それこそ感情的にも高評価を下すと考えるわけです。次に、予想以上に悪い業績報告であるというサプライズの場合にはどうでしょうか。このケースの場合、一流企業については、優れた企業能力や経営品質を多くの投資家が信じているため、たまたま悪くてもまた向上するであろうという考えのもと、評価を大きく下げないという効果をもたらすと考えられます。セレブ企業の場合は、そういった企業能力や経営品質についての裏づけをもたないまま、将来性を買っているわけですから、一流企業ほどには投資家は寛容ではないと考えられるのです。


Pfarerらにより経験データを用いた仮説検証の結果、セレブ企業は一流企業よりも、予想業績を上回る報告をする頻度が高いことがわかりました。また、一流企業もセレブ企業も、予想以上の業績のときの投資家の評価は高く、予想以下の時は投資家から寛容に見られることも確認されました。また、セレブ企業のほうが一流企業よりも、予想以上のサプライズ業績であったときの投資家からの評価が高いことも確認されました。

文献

Pfarrer, M. D., Pollock, T.G., & Rindova, V. 2010. A tale of two assets: The effects of firm reputation and celebrity on earnings surprises and investors' reactions. Academy of. Management Journal, 53, 1131-1152.