ワーク・ライフ・シナジーの起こりかたに影響する個人差

仕事と家庭との間には、仕事の好不調が家庭の好不調につながる、もしくはその反対に家庭の好不調が仕事の好不調につながるというスピルオーバー(流出)効果が考えられます。例えば、仕事でうまくいかないとき、その影響が、家庭生活にも出てしまうという例や、家庭生活が充実していることが影響して、仕事も順調にこなせるようになる、という関係です。


ワーク・ライフ・シナジーが望ましいと考える場合、上記の例でいえば、仕事でうまくいくことが、家庭での好調につながり、あるいは家庭でうまくいくことが、仕事での好調につながるというのは大いに必要なのですが、仕事でうまくいかないときに、その悪影響が家庭に及んだり、逆に家庭でうまくいっていないがために、仕事で不調になるという関係は極力抑えたいものです。


Sumer & Knight (2001)は、こういった仕事と家庭の片方の役割での好不調がもう一方の役割での好不調に影響するスピルオーバー(流出)効果を、ポジティブな流出効果とネガティブな流出効果に分ける場合、これらの起こりやすさは、個人がもっている人間関係や人間観が影響すると考え、実証研究を行いました。


個人の持つ人間関係や人間観を「アタッチメント・スタイル」という分類を用いると、「自分自身をポジティブに見ているか、ネガティブに見ているか」という軸と「他者のことをポジティブに見るほうか、ネガティブに見るほうか」という軸で4つに分かれます。そうすると、アタッチメントスタイルは、(1)自分も他者もポジティブに見るために、自分を愛し、相手も受容する「安定型」、(2)自分をネガティブに見、他人をポジティブに見るために、相手に依存しがちな「被占有型」、(3)自分も他者もネガティブに見るために、何かと恐れを抱きやすい「恐怖喚起型」、(4)自分はポジティブに見るが他者はネガティブに見るため、相手を拒絶しやすい「拒絶型」に分かれます。


アタッチメントスタイルの分類を用いて、Sumer & Knight (2001)は、次のように予測しました。

  • 自分をネガティブに見る「被占有型」や「恐怖喚起型」の人は、家庭での不調が、仕事の不調につながりやすく(ネガティブな流出効果)、また「被占有型」の人は、仕事の不調が家庭の不調につながりやすい。
  • 「安定型」の人は、他のどのタイプの人よりも、仕事と家庭のポジティブな流出効果を得やすい。
  • 「拒絶型」の人は、他のどのタイプの人よりも、仕事と家庭が独立し、流出効果があまり起こらない。


Sumer & Knightの研究は、仕事と家庭のポジティブ・シナジー、ネガティブ・シナジーが起こりやすい度合いは、個人が、自分や他者をどのように見ているかに基づくアタッチメントスタイルによって異なりうることを示した興味深い研究であるといえましょう。

文献

Sumer, H. C., & Knight, P. A. 2001. How do people with different attachment styles balance work and family? A personality perspective on work-family linkage. Journal of Applied Psychology, 86: 653-663.