変革期における組織アイデンティティの曖昧性

近年、企業の合併および買収を始め、さまざまな形で企業にとって組織アイデンティティの変化を含む大きな変革が起こる機会が増えてきました。「私たちは何者なのか」を意味づける組織アイデンティティの変化は、組織変革プロセスにおいても重要な概念となります。このような組織アイデンティティ変化のプロセスにおいてどのようなことが起こりうるのでしょうか。


Corley and Gioia (2004)は、ある事業ユニットが組織からスピンオフして独立していく事例を詳細に調査し、スピンオフされた組織のアイデンティティの変化についての観察から理論構築を試みました。彼らが理論の中核として抽出した概念が、「組織アイデンティティの曖昧性」です。ここでいう曖昧性とは、例えば「自分たちは何なのか」という問いに対する答えについて、いくつかの解釈が同時になりたつという意味で多義的な状態を指します。組織アイデンティティの曖昧性は、組織変革において、メンバーの間では、これまでの組織アイデンティティをまだ維持しているものの、同時にそれがすでに現状に当てはまらないこともわかっており、かつ、新しい組織アイデンティティがまだ確立されていない状態において起こると考えました。


組織のメンバーは、このようなアイデンティティの曖昧性と格闘し、新しい組織アイデンティティを確立しようとします。新しい組織アイデンティティは、組織メンバーがお互いに新しい組織のイメージを共有していくことによって確立させていきますが、そのようなプロセスは主にトップダウンによってなされます。それは「私たちは何なのか」を意味づける新たな組織アイデンティティが、変革後の組織において、戦略的にも重要になってくるからです。


組織アイデンティティの曖昧性の出現は、組織変革において、古い組織アイデンティティを捨て去り、新たな組織アイデンティティを確立させていくプロセスにおいて通らねばならない道であり、必要なことだと考えられます。

文献

Corley, K. G., & Gioia, D. A. 2004. Identity ambiguity and change in the wake of a corporate spin-off. Administrative Science Quarterly, 49, 173-208.