従業員の助け合いを生み出す人事管理とは

組織が協働システムである以上、企業で働く従業員同士が助け合うことが、企業業績にとって非常に重要です。わが国においても、成果主義の普及が従業員同士の協力関係を阻害してしまったという議論もあります。では、従業員が同僚に対して援助行動を積極的に行うようにするために、どのように人事管理システムを設計していけばよいのでしょうか。これに関して、Mossholder, Richardson & Settoon (2011)は、異なる思想に基づく異なる人事管理システムにおいて、従業員の援助行動が誘発されるメカニズムをモデル化することによって、その答えを提供しようとしています。


まず、Mossholderらは、人事管理システムを3つの類型に分けています。1つ目は、コンプライアンス型(遵守型)人事管理で、これは従業員が金銭などの外発的要因によって動機づけられるという前提のもとで、従業員との短期的な経済的交換関係を重視する人事管理です。明確な仕事を与えつつ従業員を適切に監視し、従業員が結果を出せば、すぐさまそれと同等の報酬で報いるというような方法です。2つ目は、コラボラティブ型(協働型)人事管理で、企業と従業員が対等な立場で協働しようとする思想に基づいており、経済的な交換関係と、相手を尊重し合うような社会的な交換関係とをバランスさせるような人事管理です。従業員からの貢献と、組織からの見返りがどの従業員間で等しくなるような平等思想に基づいて設計されます。3つ目は、コミットメント型人事管理で、従業員は内発的な動機づけに基づいて仕事をするという前提で、お互いを大事にし合う社会的交換関係を中心に設計された人事管理システムです。これは、感情的かつ強固なつながりを組織と従業員との間に作り上げ、忠誠心や求心力を高めるように設計されます。これらの異なる人事管理システムは、異なる組織風土を作り上げ、従業員の援助行動に影響を与えると考えられます。


コンプライアンス型の人事管理の場合、従業員にとって重要なのは、結果を出した分と同等の経済的利益が得られることであり、その理想は、市場原理型の組織風土に発展します。そこでは、従業員は、外発的動機に基づき、経済的に自己利益を最大化しようとしますので、組織への愛着に基づいた援助行動は起こらず、援助行動の頻度自体も、他の人事管理に比べて低いと考えられます。それでも何らかの形で従業員の援助行動を高めていくためには、援助行動をすることが従業員個人の経済的利益につながり、協力した相手にも裏切られないという確信を持たせることが大切となります。つまり、協力しても相手からお返しがくるので、損はしないどころか、協力による生産性向上のメリットが加わるという確信があれば、援助行動をすることになるわけです。つまり、かなり打算なかたちでの援助行動になりますので、企業としては、仕事の相互作用度合いを高めるなどして、協力関係が経済的利益の向上につながるようにすることが望ましいわけです。


コラボラティブ型の人事管理の場合、組織と従業員、または従業員同士が対等な関係であり、対等に組織に貢献し、それによって得られる生産性向上メリットを対等に分配しようという思想が基本となります。そのために、従業員の目標を共有し、共有化された目標に向かって協力しあうような関係を作り上げるのが、援助行動を高めることにつながります。コラボラティブ型の人事管理は、目標達成志向型の組織風土につながり、組織目標が最大限に達成されるよう、仕事の相互作用性や人間関係が設計されます。そうなると、コンプライアンス型と違って、一人ひとりの職務が独立度が低く、よって成果も測定しにくいので、自分の貢献が他のメンバーの貢献よりも負担が多いような場合、つまりフリーライダーが存在するような状況になると、不公平感が生じて援助行動をしなくなります。よって、従業員がみな同等に組織目標の実現に貢献し、その結果、従業員に均等にそのメリットが与えられるような人事管理を設計することが望ましいということになります。


コミットメント型の人事管理の場合、従業員はコミュニティーとしての組織に愛着を持ち、自分を同化し、組織全体の一体感を高めていくことをねらいとしているため、従業員が、感情的なきずなで結ばれ、お互いに援助し合うという行動の頻度はもっとも高いと考えられます。家族や共同体のように情緒的な一体感の強い組織風土が醸成されるわけです。従業員は短期的な経済的交換関係ではなく、長期的かつ情緒的な社会的交換関係で結ばれており、助け合いが基本でもあるわけです。愛着や愛情が、援助関係の基本となりますので、従業員の協力が十分に認知されず、感謝されないならば、従業員は援助行動をしなくなります。つまり、組織として、従業員を大切にすること、気遣うこと、協力行動を認知し、感謝するといったようなことが重要になってきます。従業員は、経済的報酬よりも、自分が組織に認められた、感謝された、役になっているという認識自体が喜びとなり、援助行動の動機となるわけです。

文献

Mossholder, K. W., Richardson, H., & Settoon, R. P. 2011. Human Resource Systems and Helping in Organizations: A Relational Perspective. Academy of Management Review, 36, 33-52.