組織論の新たな地平としてのネットワーク理論

近年、組織論の世界で急速に発展しているのが、ネットワークの視点です。一言でいうと、「ネットワーク」というレンズを使って、組織内で起こっている現象や、組織の振る舞い、組織間関係などについて理解していこうとする考え方です。


ネットワークの概念は、人と人もしくは組織と組織が「つながっている」ことに焦点を当てます。そのことにより、経済学などで想定するように、活動主体が基本的に独立しており、自律的に動き、自由に意思決定できるわけではなく、活動主体の行動は、ネットワークという構造によって大きな制約を受けていると考えるわけです。極端にいえば、活動主体が、どのようなネットワークの、どのような位置にいるかによって、その行動が規定されるというわけです。ネットワークが活動主体の行動を決定するという側面を重視する視点です。もう少し正確にいうならば、活動主体が埋め込まれているネットワークが、その主体の行動を制約すると同時に、その主体にとってなんらかの機会を提供するといえます。


Zaheer, Gozubuyuk & Milanov (2010)は、人間のつながりや組織のつながりというネットワークが持っている機能を、(1)資源へのアクセス機会、(2)信頼形成、(3)パワーおよびコントロールの手段、(4)ステイタス・シグナルの4つに分類しています。活動主体をとりまくネットワークの特質は、これら4つの機能を通じて、活動主体の行動や業績に影響を与えると考えられるわけです。


資源へのアクセス機会という要素では、ネットワークによって、新たな知識や情報の獲得や、必要な資源の確保といったことが可能になります。人や組織はなんらかの資源を外部に頼らざるを得ないし、外部から来る知識や情報は、イノベーションなどにおいても重要であるわけです。だから、どういったネットワーク特性が、こういった資源へのアクセス機会を高めるかというのが、ネットワーク的視点による組織論の重要な研究テーマとなりうるわけです。


信頼形成に関しては、取引においてお互いが信頼関係にあれば、裏切りや機会主義的行動を防ぐことができ、かつ監視やコントロールの必要性も減るため、取引にかかるコストの低減に役立ちます。すなわち、信頼関係が高いほど、活動主体間で協力行動が促進され、取引の効率性や業績が高まることが予想されるわけです。このような信頼が、ネットワーク構造によってどう変化するのかも、重要な研究テーマです。


パワーおよびコントロールの視点も、人と人との政治的関係、組織間の交渉力や支配力などに大きくかかわる重要なテーマです。ネットワーク理論は、活動主体のネットワーク上の位置づけやつながり方によって、こういったパワーを得られることを示唆します。他の人々や組織に対して相対的なパワーが高まれば、それは自分の都合のよいように他者や他組織を動かしたり影響を与えたりできるため、業績にも有利に働くことになります。


そして、ステイタス・シグナルの視点も、組織や個人の業績や有利性に重要な役割を果たします。とりわけ、活動主体の真の実力やクオリティが不明瞭である場合、その活動主体がネットワーク上のどの位置にいるかによって、その活動主体の相対的地位(ステイタス)が推量されます。つまり、ネットワークでのポジションが、ステイタスのシグナルとなるわけです。自社や自信のステイタスが高まれば、さまざまな点で有利になることは疑う余地がないでしょう。


組織のネットワーク理論は、ネットワークが持つ上記のような機能について、2者間のレベル、活動主体をとりまくネットワークのレベル、さらに大きなネットワーク全体のレベルという異なるレベルから、また、個人間レベル、集団間レベル、組織間レベルといった、ことなる分野をまたぐかたちで、研究が発展しているのです。

文献

Zaheer, A., Gözübüyük, R., & MILANOV, H. 2010. It's the Connections: The Network Perspective in. Interorganizational Research. Academy of Management Perspectives, 2010 Feb. 62-77.