組織論におけるネットワーク分析の視角

Zaheer, Gözübüyük & MILANOV (2010)は、組織論におけるネットワークの分析視角を、2者間(ダイアド)レベル、自己中心的(エゴ)レベル、ネットワーク全体のレベルに分類しています。ここでいうエゴというのは、自己中心的な性格という意味ではなく、特定の活動主体から見た、ネットワークの構造を意味しています。もっとも研究の多いのが、このエゴレベルです。ネットワーク理論では、活動主体が、ネットワークにどのようなかたちで埋め込まれているかがしばしば論点となりますが、ダイアドレベルの場合、それは関係的埋め込み(relational embeddedness)という概念で分析され、ネットワークの紐帯(つながり)の強さや信頼関係が問題になります。エゴレベルの場合、それは構造的埋め込み(structural embeddedness)という概念で分析され、ネットワークの密度や中心性という特徴が問題になります。


ダイアドレベルでは、ネットワークの紐帯の強さが問題になりますが、強さと活動主体の有利性や業績がどのように絡んでくるかが研究されてきました。ネットワークでの他の活動主体とのつながりは、知識の共有、資源や能力の相互補完性、効果的な統治関係を規定し、それが活動主体の競争優位性につながるとされます。グラノベッターの「弱い紐帯の強さ」という逆説的な研究は有名ですが、強い紐帯と弱い紐帯のどちらが望ましいかは一概には言えません。活動主体が強い紐帯でつながっていることは、暗黙知を共有するのに適しています。一方、弱い中退は、形式知の獲得や情報収集に適しています。また、強い紐帯でつながっていることは、資源や知識の掘り起こしや開拓といった活動(exploitation)に有利であり、弱い紐帯でつながっていることは、情報や資源の探索(exploration)といった活動に有利だと言われています。


エゴレベルでは、活動主体を取り囲むネットワークの構造に注目するわけですが、鍵となるコンセプトが、中心性(centrality)、構造的空隙(structural holes)と閉鎖系(closure)、そして構造同値(structural equivalence)です。紐帯の方向性を考慮するならば、中心性とは、自分から他者にたくさんつながっていくネットワークであり、評判(prestige)は、他者から自分にたくさんつながってくるネットワークです。方向性を考えない場合、中心性で統一しますが、組織間関係やアライアンスの研究では、中心性の高い企業ほど、業績、イノベーション、知識や能力の吸収、新製品開発などが高まるとされています。


構造的空隙とは、ネットワークの密度が低く、自分がつながった相手同士のつながりがないような状態を指しており、構造的空隙が多いネットワークを保持していると、あちこちから、重複のない幅広い知識や情報にアクセスしたり、獲得できると考えられます。逆に、閉鎖系というのは、ネットワークが密になっている状態を指し、閉鎖系のネットワークでは、つながった活動主体同士の協力関係や信頼関係が高まると考えられています。ですから、構造的空隙と閉鎖系はお互いに相反するネットワーク特性なのですが、どちらが優れているというよりは、状況によってどちらが望ましいか異なるという考え方や、それぞれの長所が補完的であるので、構造的空隙の長所と閉鎖系の長所が組み合わさればもっとも有利な効果が得られると考え方があります。


また、ネットワークとステイタスのかかわる研究では、ネットワーク上でステイタスの高い活動主体は、周りから高い品質を持っていると判断されやすいので、資源獲得にかかわる取引コストが低減されたり、相手から望ましい相手であると考えられる度合いが高まるとされています。ネットワーク全体の特徴に着目する研究では、スモールワールドネットワークの研究(ある特定のネットワークの形状が、お互いの距離を飛躍的に縮める)や、ネットワークの出現や進化に関する研究があります。

文献

Zaheer, A., Gözübüyük, R., & MILANOV, H. 2010. It's the Connections: The Network Perspective in. Interorganizational Research. Academy of Management Perspectives, 2010 Feb. 62-77.