ネットワークの中心とはどういうことか

私たちの社会や組織をネットワークの視点で見るときに、直感的に重要だと思われる概念が「中心性」です。たとえば、自分がネットワークの中心にいれば、さまざまなメリットが得られ、他者よりも有利になると考えるでしょう。しかし、ネットワーク理論における中心性は、もう少し厳密に定義したり論じる必要があります。増田(2007)は、ネットワークの中心性を、(1)次数中心性、(2)近接中心性、(3)媒介中心性の3つに分類して、それぞれの中心性の特徴を説明しています。


一番わかりやすいのは「次数中心性」で、これは自分とつながっている人の数が多いということを指し、いわゆるハブのような位置になります。ただし、つながりの数が多く、ハブの役割を担っていても、ネットワークの中心かといわれるとそうでもないということもあります。ネットワークの周辺にいてもつながりが多い場合もあります。辺境の名士や小山の大将のような場合も含まれるわけです。次に、「近接中心性」は、自分から他者への距離が近いという概念で、ネットワークを構成している人々との距離が小さい場合、ネットワークの中心にいると考えます。この場合、ネットワーク上のあらゆる人々とコンタクトがとりやすいし、情報を迅速に提供しやすいといったような意味で、中心的な位置にいるわけです。3つめの「媒介中心性」というのは、異なる集団の橋渡しをしているような位置取りにいる場合を指します。異なる集団間のメンバーの最短経路を考えると必ずそこを通るという視点で、中心性が高いと考えるわけです。


この3つの中心性概念の違いを理解するために、増田(2007)は、いわゆるピラミッド型の組織構造をもつ会社を例に説明します。社長の下に複数の役員がおり、役員の下に複数の部長がおり、その下に課長、ヒラ社員という典型的な形態です。こういった会社の中心人物は誰かといえば、常識的にはピラミッドのトップにいる社長ということになります。では、この会社をネットワークの視点で見た場合、社長が中心であるというのはどう説明できるでしょうか。


まず、つながりの数でみる「次数中心性」で見ると、社長よりも中間管理職のほうがたくさんの直接的なつながりを持っており、次数中心性が高い場合が多いです。そうすると、次数中心性はわかりやすいですが、常識的に見た場合の中心概念とちょっとズレがあるといえそうです。次に、「近接中心性」を見ると、社長が多くの社員との距離が小さく、一番高くなりがちです。したがって、近接中心性のほうが、常識的にイメージする中心に近いといえましょう。しかし実は、社長のネットワーク上の特徴を見るうえでさらに重要だと思われるのが「媒介中心性」なのです。社長は、さまざまな部署を媒介する位置にいるために、部署間を媒介するような形になっています。そうすると、社長を介さないと物事が進まないということが頻繁に起きます。そういう意味で、社長はなくてはならない存在であり、重要な位置を占めているといえるでしょう。ですから、ピラミッド型の会社における直感的な中心人物とは、組織をネットワークとして見た場合の媒介中心性の高い人物であるといえるわけです。