戦略的組織プラクティスとは何か

戦略的組織プラクティスとは、企業にとってのコア・コンピタンスや競争優位性を規定する戦略的重要性をもつ経営施策(プラクティス)のことを指します。それゆえ、競合他社との差別化がなされているもの、他社に真似されにくいものといった特徴を持っています。Kostova (1999)は、多国籍企業の戦略的組織プラクティスの組織内移転について論じていますが、今回は、戦略的組織プラクティスそのものについての理解を深めていきたいと思います。


まず、組織プラクティス(施策)とは何かですが、例えばマーチとサイモンは、組織によって習慣化、ルーチン化された活動や業務手続きであって、組織によってなされる業務の安定性、信頼性を担保するものだと定義づけます。また、ネルソンとウインターによる進化論的視点からは、いわゆる組織の遺伝子としてのルーチンであり、それゆえ当事者としての組織にとってみれば、あたりまえ(当然)のもの、特に意識されない(潜在意識的な)もの、暗黙知的なものであると理解します。Kostovaは制度論的な視点を援用し、組織プラクティスを、組織の歴史、そこで働く人々、興味関心、諸活動などに影響されながら進化していくことによって組織内で制度化された組織機能の実行形態であると定義します。組織プラクティスは、組織内の知識や能力が共有された結果であり、組織メンバーに受容され、当然だと見なされるものだとも指摘します。


なかでも戦略的重要性を帯びた組織プラクティスは、組織の象徴性や行動規範をともなう価値観に満ちたものであるとKostovaは指摘します。戦略的組織プラクティスは、そのような意味合いをもっているがゆえに、単なる技術的効率性を超えた存在だといえます。従業員にとっても、そのようなプラクティスを誇りに思うなど、満足感や組織との同一性(アイデンティティ)を高めるものでもあります。つまり、戦略的組織プラクティスは、その組織を象徴するものでもあり、組織のアイデンティティ(例、イノベーティブ・カンパニー、顧客志向の組織)を規定するプラクティスでもあるわけです。したがって、組織内に戦略的組織プラクティスが移転、浸透するプロセスは、それに込められた意味や価値観も同時に浸透させることに他なりません。


戦略的組織プラクティスが組織内に成功裏に浸透するということは、プラクティスの「制度化(institutionalization」が実現するということだとKostovaは論じます。制度化とは、組織内で「このやりかたがうちのやり方だ」と人々が思うようになることです。同時に、そのやり方が組織内の人々にとって、組織を象徴する意味合いを持つものになることです。制度化はさらに「実行(implementation)」と「内面化(internalization)」のレベルに分かれるとKostovaはいいます。実行は、戦略的組織プラクティスを表す公式的な規則や手続きに人々が従うようになることで、客観的な行動や活動として観察できるものです。一方、内面化とは、人々が戦略的組織プラクティスに象徴的な意味合いや価値を見出すようになることです。


実行と内面化の両方が成されることがポイントとなります。単に人々が組織内において特定の業務手続きに従事するようになるだけでなく、それを内面化することによってはじめて、組織にとって他社との差別化や競争優位性をもたらす戦略的組織プラクティスの浸透が実現するというわけです。

文献

Kostova, T. 1999. Transnational transfer of strategic organizational practices: A contextual perspective. Academy of Management Review, 24: 308–324.