弱い紐帯の強さのパラドクス

今回は、ネットワーク理論や社会学ではあまりにも有名な、グラノベッターの「弱い紐帯の強み」を紹介します。人と人とのつながりなどにおいて、連絡しあう情報の密度も頻度も低いようなつながりを、弱い紐帯と言います。親友が強い紐帯だとすれば、単なる知人、年に1回年賀状のみ交換する相手などは、弱い紐帯だと言えます。グラノベッターは、一見するとあまり価値のないようなこの「弱いつながり」は、実はさまざまな面において重要であるということを指摘したわけです。


その大きな理由の1つが、弱い紐帯はしばしば、異なる親密なネットワークグループ間の橋渡しをする「ブリッジ」になりうるからだと言います。もし、つきあっている人すべてが強い紐帯で結ばれ、弱い紐帯を1つも持たない人や集団があるとすると、その集団は、お互いに密であるがゆえに、外部と遮断されてしまい、重要な情報が入ってこないことになります。弱い紐帯を通じて外部から入ってくる情報は、新しいアイデアだったり重要な情報だったりするわけですが、それを得られなければ競争力も弱まってしまうでしょう。


例えば、転職の例でいくと、企業などにおいて空きポジションが出るのはタイミングが重要で、空きポジションが出たときにすぐさま適切な人が見つかって採用されるのがベストになります。こういった場合、採用関係者は、まずは自分の親密な人々に当たってみるでしょうが、そこで見つからない場合、あまり親しくなくてもちょっと知っているような人に、問い合わせをしたりするでしょう。つまり、弱い紐帯というのは、よほど重要だったり新奇な情報伝達でないと使われないようなつながりだとも言えるわけです。弱い紐帯を伝ってやってくる情報は、多くが重要で新しいものだったりするわけです。普段親しくしている友人が電話やメールをよこしてきたとしても、たわいのない話かもしれません。けれども、過去数回しか会ったことのない人からの連絡は、何か重要な情報があるに違いないと思うのが自然でしょう。


実際、グラノベッターらの研究では、転職などが弱い紐帯を通じて行われることが指摘されてきました。社会全体でみるならば、重要な情報は、弱い紐帯を伝って社会全体に浸透していくものであり、人々は、弱い紐帯をつかって(転職などによって)動き回っているといってよいでしょう。このように、弱い紐帯が、個人にとっても社会にとっても重要な機能を果たしていることが分かります。


ではなぜ、異なる種類の人同士、あるいは異なる集団同士の橋渡しをする「ブリッジ」が、弱い紐帯なのでしょうか。それは、ブリッジを含む3者関係を考えるとわかります。もしブリッジ相手とのつながりが強い紐帯であるとするならば、自分とブリッジの共通の知り合いや友人ができる可能性が高くなります。なぜなら、強い紐帯であるということは、頻繁にかつ親密的につきあうわけですから、当然、自分の知り合いを相手に紹介したりする機会も増えてくるからです。そうして、共通の第3者ができてしまうと、つながりはすでにブリッジではなくなってしまうわけです。


また、ブリッジでつながっている相手同士は、特徴が異なっている場合が多いと考えられます。特徴がことなる人同士のつながりのほうが、似たもの同士のつながりよりも、多様な情報、新しい情報が交換されやすく、有利だと考えられます。なぜブリッジでつながっている相手同士が、あまり似ていないかというと、1つの理由としては、あまり似ていないがために、そんなに親しい間柄にならないということが考えられます。ちょっとした知り合い以上に進展しないということです。また、強い紐帯でつながっていくと、徐々にお互いが似てくるという説明も可能です。頻繁に情報交換をしていれば、お互いに影響を与えあう関係になるからです。

文献

Granovetter, M. 1983. The strength of weak ties: A network theory revisited. Sociological Theory, 1, 201-233.