クリエイティブな活動はどれだけ業績に貢献するのか

現代の仕事、とりわけ高度で複雑な仕事になってくると、クリエイティビティ(創造性)が重要になってきます。クリエイティビティを発揮するためには、クリエイティブな活動が必要になってきます。では、クリエイティブな活動をしていれば、それがそのまま仕事の業績もしくは成果につながっていくのでしょうか。クリエイティビティが必要な仕事であれば、クリエイティブな活動をすればするほど仕事の業績が向上していくように思えますが、Zhang & Bartol (2010)は、そのような直感的な見方に異議を唱えます。端的に言えば、クリエイティブな活動ばかりやっていてもそれに比例して仕事の業績が高まるわけではないので、ほどほどに抑えておくのがよいという考え方です。


つまり、Zhang & Bartolは、クリエイティブな活動は、中程度まで増やしていけば、それが仕事における業績の向上をもたらすものの、さらに活動度合いを高めていくと逆に業績が低下していくのだと考えました。つまり、クリエイティブな活動と業績とは、上に凸の曲線になっていて、業績が最大化するのは、クリエイティブ活動が中程度のときであり、クリエイティブ活動が低い場合も、高い場合も、実際の仕事の業績は中程度には及ばないということなのです。


クリエイティブな活動は、学術的には(creative process engagement: CPE)と呼ばれ、(1)問題設定(problem identification)、(2)情報収集およびコード化(information searching and encoding)、(3)アイデアや代替案の創出(idea and alternative generation)を含むクリエイティビティを高めるための方法に従事する活動と定義されます。クリエイティブな活動が増えれば、結果としてのクリエイティビティも高まると考えられます。当然、仕事の最終成果すなわち業績は、新しいものを生み出したことのみで決定されるわけではないので、実際に発揮されたクリエイティビティは、部分的に仕事の業績に反映されると考えられます。


Zhang & Bartolが考案した理論の前提となるのは、人間の認知能力には限界がある(人の頭脳は万能ではない)という事実です。とりわけ高度で複雑な仕事をしようと思ったら、仕事に意識を集中させなければなりませんし、頭の中の高度な知識にアクセスし、複雑な思考を行う必要もあるので、脳に相当の負担をかけることになります。この考え方に従うと、クリエイティブ活動をあまりしていないときは、本人の頭脳は活性化していないので、高度で複雑な仕事において業績が高まることはないことは直感的に理解できるでしょう。その状態から、クリエイティブな活動を増やしていけば、頭脳の活性度が高まっていくので、注意力、集中力も高まり、複雑な思考も活性化されてクリエイティビティも高まり、仕事の業績が向上していくことでしょう。


しかし、クリエイティブ活動の度合いと仕事の業績が正の関係にあるのは、クリエイティブな活動が中程度に達するまでです。それを超えてクリエイティブ活動を高めてしまった場合に何が起こるかというと、頭脳のオーバーキャパシティ状態です。高度にクリエイティブな活動に求められる情報処理に、頭脳の情報処理能力が追い付かなくなってしまうということです。例えば、クリエイティブ活動が過剰になると、特定の活動や仕事内容に注意が集中してしまって、複雑な仕事をこなすのに必要な他の活動に注意がゆきわたらず、それらがおろそかになってしまいます。また、過度に注意力や集中力を使うことによって、脳の情報処理能力が低下し、クリエイティビティも含めた仕事全体の効率が下がってしまいます。PCでたくさんのアプリケーションを同時に立ち上げるとCPUの負荷が上がってしまって処理速度が遅くなってしまうのと同じような現象です。よって、クリエイティビティ活動が中程度から高いレベルでは、仕事の業績と負の関係になり、全体的に見ると、クリエイティビティ活動と仕事の業績との関係が上に凸の曲線になるわけです。


Zhang & Bartolは、上記のようなクリエイティブ活動と仕事の業績との上に凸の曲線的関係は、職務経験の度合いによって、曲線の形状が変わるという考えも提示しています。職務経験の浅い人の場合、クリエイティブ活動が低い状態から中程度の状態までは、仕事に熟練していないがゆえに頭脳が活性化され、業績はやや高めとなります。クリエイティブ活動が中程度から高い状態では、認知資源のオーバーキャパシティが深刻になるために業績は悪化すると考えられます。職務経験が豊富な人の場合は逆のパターンで、クリエイティブ活動が低い状態から中程度の状態までの業績は、仕事に慣れているがゆえに頭脳が活性化せず、業績は低めとなります。クリエイティブ活動が中程度から高い状態では、仕事に熟練しているがゆえに認知資源にやや余裕があるので、業績はやや高めになると考えられます。Zhang & Bartolは、実証研究によってこれらの理論および仮説が妥当であることを確認しました。

文献

Zhang, X. M., & Bartol, K. M. (2010). The influence of creative process engagement on employee creative performance and overall job performance: A curvilinear assessment. Journal of Applied Psychology, 95: 862-873.