日本の大企業における出世の法則

わが国では、とりわけ昔の時代は、大企業に入社することは人生の成功を示唆していました。しかし、大切なのは、大企業のなかで課長、部長、取締役というように出世していくことです。大企業で出世する人すなわち「エラくなる人」はどんな人なのでしょうか。あるいは、大企業において従業員が出世していくメカニズムはどんなものでしょうか。


会社経営というのは基本的に適材適所なのだから、本人に上位の役職が務まるだけの実力があれば出世するのだという至極まっとうな考えは、ストーリーの半分だけしか言い当てていません。楠木(2011)は、大企業における課長クラス以上の出世の条件は「エラくなる人と、出会い、知り合い、長く一緒にやっていくこと」だと指摘します。もちろんそれには、大組織において政治的に活躍できる能力を持っていることも重要な要素となってくるでしょう。つまり、出世というのは本人の能力や実力のみで決まるのではなく、すでにエラくなっており人事権を持っている人から「引き寄せてもらう」ことが重要だということなのです。


終身雇用、年功序列を基軸とする従来型の大企業の場合、学卒一括採用によって入社した同期の中で出世レースが繰り広げられます。ジョブ・ローテーションというかたちで、数年ごとに人事異動によって配置転換がある企業が多く、どこに異動するかが出世のポイントになる場合もあります。社内で定期的に配置転換を繰り返しているなかに、だんだんと同期と差がついてきて、出世する人、出世できない人に分かれてくるという見方ができるでしょう。配置転換のパターンには、出世コースとそうでないコースがあるように思われます。


その理由は、社内では花形の部署もあれば、そうでない部署もあり、花形部署に異動になれば、先ほどあげたような「(結果的に)エラくなる人」と知り合うチャンスが増えるからだと思われます。その部署に異動になるのは本人の資質がモノをいうのかもしれませんが、そこで自分を引き寄せてくれる人と出会うというのも、出世ドライブを加速する要因となるのです。


大組織では従業員が組織内移動が頻繁にあるので、いろんな人との出会いがある。そういったなか、自分が持っている何らかの能力によって、あるいは運の組み合わせによって、配置転換などを通じて社内で将来エラくなるような人とめぐり会い、知り合う。そして、上司とうまくやる能力などの政治的能力によって、そういった人と長期的にうまく関係を維持していく。そしてそれがが、結果的にその人によって自分も引き寄せられてエラくなる、ということなのでしょう。


もちろん、自分を引き寄せてくれるエラい人も、同じようなプロセスでエラくなったのであり、これからエラくなっていく人も、同じように自分と出会い、自分とうまくやっていく若手を引き寄せることになるわけです。このサイクルが繰り返させることによって、スパイラル状に組織内での出世の階段を登っていく人々がいる、というのが、日本の大企業における出世の法則性を言い表しているのかもしれません。