日本的組織・人事の成功要因

過去、日本的経営の3種の神器として「終身雇用」「年功序列」「企業内労働組合」を指摘したのは、ジェームズ・アベグレンでした。しかし、これらのように過去の日本企業の強さを支えた特徴が、機能不全を迎えていることは多くの識者によって指摘されてきました。冨山(2007)は、組織論、人事管理論の観点から、戦後の驚異的な経済成長を支えた日本企業の組織としての強みを、次のように説明しています。


まず、日本企業が1970年代から成功を収めた要因は、全社一丸となって突き進む「ゲマインシャフト組織」を作り上げたからだと指摘します。人々の利害関係で成立する「ゲゼルシャフト組織」の場合、メンバーを誘引する要素は経済的な報酬に頼らざるをえず、これは企業にとっては大きなクスと負担を意味するといいます。組織内の人間関係も契約化するため、社内の取引コスト、情報コストも上昇します。こう見てみると、経済学で組織をとらえる場合、参加者の利害関係対立を前提としたり、金銭的インセンティブに注目したり、組織を契約の束と捕らえたり、取引コストの観点から分析するなど、暗黙的に「ゲゼルシャフト組織」を前提においていることがわかります。


一方、「ゲマインシャフト組織」の場合、組織への帰属意識や貢献が働くインセンティブとなるので、組織へのロイヤルティも高く、長期的な信頼に基づく少ない取引コストや、あうんの呼吸で集団として高い能力が発揮できるという利点を冨山は指摘しています。ゲマインシャフト的な特性はそれこそ日本の深層文化なので、これを否定することは生産的ではないと指摘しています。日本企業の日本らしさとはここにあるのかもしれません。


しかし一方で、冨山は、日本企業の人事管理についても触れ、日本的社会文脈において組織の新陳代謝と世代間のピラミッド構造を維持してきたメカニズムにも言及しています。たとえば、年功序列については、年功と地位、報酬が連動することが基本であるが、これは若い社員が年配の社員よりも人数が多いからこそ維持できる仕組みであり、実際、過去はそうであったために、状況とフィットした合理的な仕組みであったことを示唆しています。


そしてもう1つ年功序列を支えてきたのが、女性社員の「寿退社」だったと指摘しています。女性の意思がどうであるかにかかわらず、かつて女性社員は「寿退社」を代表的なパターンとして、早くに職場を去っていきました。これが結果的に、現場における人材不足を生み、新しい若い人材を迎え入れる仕組みにつながったのだというのです。つまり、組織の女性社員層にかんしていえば、若い社員を短期で回転させるような仕組みができたがっていたために、組織における新陳代謝すなわち人の入れ替わりと、社員の高齢化を回避する仕組みとなっていたのだと考えられるのです。