インド企業に学ぶ人材マネジメント

飛躍的成長を遂げていながら、その経営手法があまり注目されてこなかった企業として、インド企業があります。シンほか(2011)は、成長を支えるインド企業の経営を「インド・ウェイ」と名付けて紹介しています。今回はその中でも、インド企業の人材マネジメントについて紹介してみたいと思います。


シンらは、インド企業の人材マネジメントの特徴を「従業員とのホリスティック・エンゲージメント」という言葉で表現しています。インド企業にとって、企業の成功はトップマネジメントの戦略眼やリーダーシップにあるのではなく、従業員の前向きな態度と行動にその源流があると考えます。モチベーションが高くコミットメントが強い従業員は、自分の利害関係を超えた組織に対する使命感や社会的目的を基礎に、手ごわい問題を解決するために粘り強く取り組みます。それを可能にするのが「従業員とのホリスティック・エンゲージメント」だというのです。


「従業員とのホリスティック・エンゲージメント」を簡単にいえば、企業と労働者との相互主義の感覚を作ることによって、従業員コミットメントを生み出すということです。企業が従業員やその家族が大切にしていることの面倒を見ることによって、従業員が企業の利益を大事にするという関係です。例えば、HCLという会社が掲げている「従業員第一、顧客第二」という経営思想です。また、HCLは目標の達成に応じた業績給や出来高給を用いる代わりに、目標を達成することを期待して(従業員を信頼して)全額支払うという「トラスト・ペイ」という方法を取っているとシンらは紹介しています。


インドの企業は米国企業と比較しても人材マネジメントにより多くの注意を払っているとシンらは指摘します。とりわけ重視しているのは、従業員の現在の仕事と昇進に向けた投資、自分で意思決定し問題解決できる権限と自律性の付与、会社の利益の視点から活動できる組織文化の創造だといいます。例えば、インド・ウェイを実践する企業では従業員は家族的な感覚で包みこまれるといいます。インドのビジネスライフでは家族的文化があり、個人的な絆を重視する姿勢が浸透しているからです。そして、インド企業は従業員をエンパワーするといいます。


そして、インド・ウェイにおいては、人材マネジメントが企業のビジネス戦略と一体化していることだとシンらは結論付けています。なぜなら、戦略は内部的なコンピテンシーに基づいて構築され、最終的には従業員の行為と努力に由来するからだということです。