組織行動論で注目を浴びる「中核的自己評価」

組織行動論もしくは実務的に組織をマネジメントしていくうえで欠かせない考え方が、従業員は一人ひとり異なるという事実です。つまり個人差です。そこで問題となるのが、どのような個人差が人間の組織行動を理解し、組織マネジメントに役立てるうえで重要かということです。これに関し、従来から研究が蓄積されているのが、5要因モデルという性格特性です。それに対し、近年急速に注目が高まってきた個人差概念として「中核的自己評価(core self-evaluation)」があります。


中核的自己評価とは、人々が自分自身の存在価値や能力をどのように評価しているかを示す傾向です。簡単にいえば、自己評価に関する最も基本的な個人差特性ということです。自己評価の高い人もいれば、低い人もいるということです。では、なぜ中核的自己評価が組織行動論で重要なのでしょうか。それは、中核的自己評価が、職務満足や職務成果など、組織の生産性にとって重要なさまざまな変数と関連していることがわかってきたからです。


例えば、どんな仕事をやらせても満足する人もいれば、どんな仕事を与えても不満を口にする人がいます。仕事だけでなく人生において満足度の高い人、低い人がいます。常に目標を高く掲げる人もいれば、高い目標を立てない人もいます。こういった多くの現象が、中核自己評価の高低の影響を受けていると考えられます。中核的自己評価は、以下にあげる4つの個人属性が共通して持っている傾向です。それらは(1)自尊心、(2)一般的自己効力感、(3)情緒安定性、(4)統制の所在、です。この4つの属性すべてが、基本的に自分をどう評価しているかに関わっているのです。


中核的自己評価の高い人は、自分自身をポジティブに捉えるのと同様に、物事のポジティブな面に注目しようとする傾向が強いと考えられます。また、そもそも自分は価値のある人間だと思っているので、それに見合うように、物事を肯定的に解釈するとも考えられます。物事の良い面に注目するので、そもそも人生一般や仕事に関して満足感を抱きやすい傾向にあります。職場においても肯定的に捉えがちなので、コミットメントも高く、仲間への援助行動の頻度も高いと考えられます。また、チャレンジングな環境を良い機会だと考えるので、高い目標をもったり困難な仕事を好んだりします。


逆に、中核的自己評価が低い場合、物事のネガティブな面を気にしてしまいがちです。よって、働いていても人生一般においてもネガティブな面が気になって高い満足感を得られません。コミットメントや援助行動も低くなり、チャレンジングな目標を立てにくくなります。自己評価が低いので、物事の積極的になれないし、ネガティブな面を避けよう、そこから逃げようという傾向が強くなってしまうのです。


中核的自己評価のような個人差は、一般的には安定していて変化しにくい個人属性もしくは性格特性だと考えられますが、まったく変化しないとは考えられません。なんらかの形で中核的自己評価も変化すると考えられます。そうであれば、中核的自己評価の高い人物を採用選考などで選抜することに加え、中核的自己評価を高めるような施策や教育訓練というものも、組織マネジメントにとって意味のあるものとなっていくでしょう。

文献

Chang, C.-H., Ferris, D. L., Johnson, R. E., Rosen, C. C., & Tan, J. A. (2012). Core self-evaluations: A review and evaluation of the literature. Journal of Management, 38, 81-128.