お客様からの理不尽な扱いに従業員はどう反応するのか(2)

「お客様からの理不尽な扱いに従業員はどう反応するのか(1)」において、従業員の共感(パースペクティブテーキング、相手の立場に立って考えること)の能力が高いと、顧客からの不当な対応にともなう悪影響が和らぐ可能性についての研究を紹介しました。
http://d.hatena.ne.jp/jinjisoshiki/20121125/1353845796


顧客からの理不尽な扱いにおける、従業員のモラル同一性(moral identity)の役割について行ったSkarlicki, van Jaarsveld, & Walker (2008)による研究を紹介します。まずSkarlickiらは、サービス業務に携わる従業員が顧客から理不尽な(アンフェアな)扱いを受けた場合、従業員の顧客に対する怠慢行動が増すことを予測しました。これは、不当な扱いを受けた従業員の心の中に怒りや非難の気持ちが芽生え、その気持ちにもとづいた報復として、顧客に対して怠慢行動をとるというメカニズムで説明できます。そして、このメカニズムが、従業員のモラル同一性の度合いによって影響を受けることを予測しました。


モラル同一性は、人がどれだけ道徳的(倫理的)観念を意識しているかの度合いだと考えられます。モラル統一性の高い人は、道徳的観点から物事を考えたり判断したりする傾向が強く、情報処理をするさいに道徳的観点を喚起しやすいタイプの人物だといえます。ただ、モラル同一性には、象徴化(symbolization)と内面化(internalization)という2つの対照的な次元があるとも考えられます。象徴化次元は、道徳的な出来事に対する反応を公の場で行為として表に出しやすい度合いを指します。例えば、非道徳的な行為に対して怒りの反応をすぐに出しやすいかどうかという度合いです。それに対して内面的次元は、道徳的基準が自己の中心にあるため、道徳的な出来事において外部に寛容で懲罰的でない度合いを指します。例えば、非道徳的な人物がいたとしても、その人を強く非難したり罰したりせず、許してあげようという気持ちが働く度合いです。


Skarlickiらは、顧客対応の従業員を対象とした調査を実施し、顧客から不当な扱いを受けた従業員が、顧客に対して怠慢をはたらく度合いは、モラル同一性のうち象徴化次元が高い人物ほど顕著に見られること、しかし、モラル同一性のうち、内面化次元が高い場合、そのような傾向(象徴化次元の高さが、不当な扱いにたいする怠慢としての反応を助長する)が見られないことを確認しました。


Skarlickiらの研究により、顧客から不当な扱いを受けた場合、モラル同一性の象徴化次元が高く、内面化次元が低い従業員の怠慢行動が増すことがわかりました。そのことによる組織の業績の低下を防ぐにはどうすればよいでしょうか。まず、フェア・マネジメントを徹底するという組織であるならば、まずは、自分の従業員が顧客から不当な(アンフェアな)扱いを受けることを防ぐことも重要なマネジメントとなるでしょう。従業員を理不尽に扱う顧客に対してはサービスを提供しないという毅然とした方針を提示するのもその1つでしょう。あるいは、従業員の顧客対応能力を高める訓練を行い、顧客からの不当な扱いを未然に防ぐという方法も考えられます。

文献

Skarlicki, D. P., van Jaarsveld, D. D., & Walker, D. D. (2008). Getting even for customer mistreatment: the role of moral identity in the relationship between customer interpersonal injustice and employee sabotage. Journal of Applied Psychology, 93(6), 1335.