マネジメント・イノベーションの生起プロセス

イノベーションというと、製品開発や技術革新を思い浮かべがちですが、経営手法やマネジメントでもイノベーションが存在します。現代における企業経営は、マネジメント手法に関するさまざまなイノベーションが積み重なって出来上がったものだといってもよいでしょう。例をあげるならば、古くは事業部制の発明から、TQM、トヨタ生産方式セル生産方式、DSF法、活動基準原価計算、シックスシグマ、バランススコアカードなど、様々なものが生まれてきましたし、これからも出てくるでしょう。これらを、Birkingshaw, Hamel & Mol (2009)は、マネジメント・イノベーションと呼び、「組織の目標をさらに実現していくために発明され実行されてきた、新たなマネジメントの施策、プロセス、構造、あるいはテクニック」と定義します。


では、特定の企業におけるマネジメント・イノベーションはどのように生起するのでしょうか。技術的イノベーションと異なり、マネジメント・イノベーションは抽象的なコンセプトであることが多く、社内にその専門家がいるわけではなく、かつ不確実性が高いという特徴を持っており、生起プロセスも技術的イノベーションとは異なると考えられます。Birkinshawらは、マネジメント・イノベーションの生起プロセスは「モチベーション」「発明」「実行」「理論化・命名」の4つのフェーズに分かれ、かつ、組織内チェンジ・エージェントと組織外チェンジ・エージェントの2種類の仕掛け人による共同作業であると考え、モデル化しました。このプロセスは直線的ではなく、行ったり来たりを繰り返す複雑なプロセスでもあります。


組織内チェンジ・エージェントとは、プロアクティブにマネジメントの改善を推進していこうとする従業員で、彼らが実際に新しい経営手法などに関心を持ち、社内でいるいろと試しながら実行し、組織内に新しい経営手法を定着させていく役割を果たします。一方、組織外チェンジ・エージェントとは、コンサルタント経営学の権威などであり、オリジナルなアイデアに専門的観点からのアドバイスを与えたりお墨付きを与えることによって正当化していくような役割を担います。


モチベーションフェーズでは、組織内チェンジ・エージェントが、企業内において既存の経営手法では解決が困難な問題設定を行い、それを組織外チェンジ・エージェントと議論します。組織外チェンジ・エージェントは外部の視点から新たな経営手法へのモチベーションをアシストします。発明フェーズでは、組織内チェンジ・エージェントが新たな経営手法に関する自分なりの仮説を立て、試行錯誤を繰り返します。組織外チェンジ・エージェントは、専門的見地から仮説や試行錯誤に対してアシストしたり、アイデアの洗練化を援助します。


実行フェースでは、組織内チェンジ・エージェントが新しいアイデアを組織内に根付かせるための試行錯誤や実験的試みを行い、組織外チェンジ・エージェントは、外部者として実行を手助けすることになります。最後の理論化・命名フェーズでは、組織内チェンジ・エージェントは、組織内の関係者に対して、新しい経営手法が望ましく正当であることを説得していきます。組織外チェンジ・エージェントは、専門的見地から、新たな経営手法のお墨付きを与えるとともに、組織外部に対しても、新たな経営手法の有効性についてのお墨付きを与える役割を果たします。

文献

Birkingshaw, J., Hamel, G., & Mol, M. J. (2009). Management innovation. Academy of Management Review, 33, 825-845,