ブラック企業による「カウンセリング・アウト」とは

外資系企業でよく聞く言葉に「アップ・オア・アウト」というのがあります。これは、昇進できなければ退職しないといけないというような仕組みを指します。それに対して、いわゆるブラック企業の1つで行われている「カウンセリング・アウト」という仕組みが、今野(2012)によって紹介されています。


今野は「ブラック企業」を定義することは難しいとして明確な定義をすることは避けていますが、ブラック企業を一言でいえば「違法な労働条件で若者を働かせる企業」だといいます。例えば、新卒社員を正社員として大量に採用し、過酷な労働条件を強いて働かせたうえで、肉体的、精神的に破壊された社員を使い捨てにするといった「使い捨てを前提とした大量採用と労務管理」を行っているような企業です。その中で今野は、IT系企業Y社が実施しているというカウンセリング・アウトの仕組みを紹介しています。ここでいう「カウンセリング」とは、「退職強要」と同じ意味合いで用いられていることがポイントです。


まず、IT人材の派遣を主たる業務とするY社にとって、派遣先が見つからない「未稼働状態」(Y社の用語ではアベイラブル状態)となると、その従業員は、利益を生み出していない「コスト」と見なされます。未稼働状態が続く社員は、彼/彼女を管理している営業社員によって切り捨てられ、人事担当役員による「カウンセリング(=教育)」に引き渡されます。カウンセリングは、フロアの社員から丸見えのガラス張りのミーティングルームで行われ、執行役員に数時間拘束された上で「仕事は無理」「人間として根本的におかしい」などの叱責を受け、「リカバリープラン」と称した「リボーン(生まれ変わる)」ための反省文などの「タスク」を課されるといいます。


「人間として根本的におかしい」部分を改善するための「リカバリープラン」では、反省文の作成やプレゼンテーション研修、日本語を正すための漢字ドリルなど様々な課題が出され、そこで何度となく詰められ、叱咤され、否定され「自分はダメな人間」であることを徹底的に叩きこまれます。そこから脱しようと課されたタスクをこなそうとするのですが、それでも叱咤と否定を繰り返され、あげくのはては心身ともに疲れきって例外なく退職に至っているとされます。これが、Y社で高度にシステム化された「カウンセリング・アウト」というもので、ハラスメントを通じて「効果的」に退職させる仕組みだというのです。


これは「新卒=コスト」であり「コスト=悪」であると考えるY社が、新人の大量採用をして肉体的な追い詰めと精神的な圧迫を行い、それでも価値(=利益)を生み出せない社員が「自分が悪い」と思わせる状況を作りだし、「自己都合退職」に持ち込む手口であると今野は解説します。このようなタイプのブラック企業は、若者の大量採用と大量退職が起こっているという点においては、ある程度見分けがつくと思われます。