戦略的人材セグメンテーションのススメ

企業が抱える人材をタイプ別に分類して異なる人材マネジメントを行うという考え方は決して新しいものではありません。わが国でも1995年には日経連が「雇用ポートフォリオ論」を発表し、総合職、基幹正社員のような「長期蓄積能力活用型グループ」、専門職などの「高度専門能力開発型グループ」、契約社員などの「雇用柔軟型グループ」に分け、それぞれのグループに対して異なる人材管理を行うことを提唱しています。


しかし、今回紹介するのは「戦略的」人材セグメンテーションです。異なるマネジメントを行う対象としての人材セグメンテーションを「戦略的に」行うところがポイントとなります。「戦略的」とは、企業が他社に対して比較競争優位性を築くための青写真であったり手段を示すものですから、上記で紹介した雇用ポートフォリオのように、ある意味あたりまえで、かつ多くの企業が同じ方法をとりやすいやりかたで人材を区分してマネジメントしても意味がありません。戦略的であるためには、他社とは異なる「切り口」によって、他社よりも優れた企業業績を生み出すことができるような方法が必要です。


Boudreau & Jesuthasan (2011)は、戦略的人材セグメンテーションを、ピボタル分析の視点から「戦略的人材カテゴリー」を特定するプロセスとして説明しています。ピボタル分析とは、以前の記事「真の戦略的人材マネジメントとは何か:ピボタル分析の事例」においても紹介していますが、追加投資を行うことで業績が劇的に改善できるようなポイント、すなわちボトルネックのような部分を探し出す分析です。ディズニーランドの事例でいうならば、ミッキーマウスなどのキャラクタースタッフよりも、清掃スタッフによる顧客サービスの向上の方が、顧客満足度を大きくする余地が大きいため、清掃スタッフのサービス向上に追加投資をするのが望ましいという話でした。


一般的な考え方でいえば、キャラクタースタッフも清掃スタッフも、同じような雇用形態の人々として認識されるかもしれません。それはアルバイトかもしれませんし、有期雇用あるいは派遣社員かもしれません。そのうちの何人かがたまたまぬいぐるみをかぶり、別の何人かがたまたま清掃を担当しているだけかもしれません。しかし、そのような常識的思考にとらわれていては戦略的人材セグメンテーションは実現しません。清掃スタッフとキャラクタースタッフは、異なる人材カテゴリーとして認識し、どちらに投資を行うのが適切かを考えるわけです。そのような戦略的人材カテゴリーには、正社員とアルバイトなど、複数の異なる雇用形態の人材が混じっているかもしれません。しかし、そのような区分はピボタル分析による戦略上は重要ではないので、ひとくくりにして、その人材カテゴリーのクオリティの向上を目指すための人材マネジメントをするべきだということです。


このように考えるとわかることですが、戦略的人材セグメンテーションは、自社の業務構造と切っても切り離せない切り口であり、さらに言えば、自社の特定の業務構造において特にどの部分を強みとして伸ばしていこうとしているのか、お客様は誰なのか、どのように喜ばせ、どのように収益を得るのかといった「ビジネスモデル」にまで踏み込んだ理解が必要になります。そうすることによってはじめて、他社とはまったく異なる切り口で、自社の収益を最大化するための人材マネジメントの青写真が描けることになるでしょう。