場当たり的な採用面接は役立たないどころか害になる

学術的・科学的アプローチを重視する採用学では、採用面接において、あらかじめ質問を標準化して設定しておく「構造化面接」の優位性が実証されており、事前に質問内容を標準化したりすることなく、状況に応じて場当たり的な質問を投げかける「非構造化面接」は、優秀な人材を見分ける(将来の職務成果を予測する)面では劣っていることが示されています。それにも関わらず、実務の世界では、場当たり的な採用面接を行うケースが多々見られるようです。


実務の世界で科学的に支持されない非構造化面接が行われている理由はいくつか考えられます。まず、面接官本人は、構造化面接は窮屈であると感じるため、自由度の高い場当たり的な採用面接の仕方を好むという点が挙げられます。また、構造化面接は、応募者に対して冷たい印象を与える可能性があるので、面接官がその場の雰囲気を盛り上げるためにも柔軟な面接の仕方を採用したいという考えもあるでしょう。


しかし、Kausel, Culbertson, & Madrid (2016)による最新の研究では、場当たり的な面接すなわち非構造化面接を用いることは、優秀な人材を見分ける(応募者の将来の職務成果を予測する)面においてあまり役に立たないだけでなく、むしろ、優秀な人材を見分ける能力を阻害してしまうことが示されています。つまり、場当たり的な採用面接が「百害あって一利無し」である可能性を示す証拠が得られたのです。


Kauselらは、巧妙な複数の実験を通じて、上記のような事実を発見しました。実験内容を簡単に説明すると、まず、実際の企業で行われた採用選考のデータと、入社後数ヶ月後の業績データを照らし合わせ、どのような選考手段が応募者の入社後の業績を最もよく予測できるかを調べておきました。その結果、先行研究と同じく、応募者の入社後の業績の予測に役立ったのは、試験で測定された知的能力と誠実性(性格特性)の得点であり、場当たり的な採用面接による得点は役に立っていませんでした。つまり、知的能力および誠実性が高いほど、入社後の業績が良かったのですが、場当たり的な面接での判断は、入社後の業績とはあまり関係がなかったということです。そして、このデータを用いて、企業の採用責任者の集団を被験者として実験を行いました。


被験者をランダムに2つのグループに分け、片方のグループでは、被験者に対して、先の調査データから抜き出した10名分の応募者の知的能力と誠実性の得点を示し、彼らの将来業績を予測してもらいました。同時に、その予測にどれだけ自信があるのかも聞きました。もう一方のグループは、同じく10名の応募者の知的能力と誠実性の得点に加え、場当たり的な採用面接による得点も示し、同様に、将来業績の予測をしてもらいました。予測の自信も尋ねました。そして、被験者の下した業績予測と、先の調査データに含まれる実際の業績との比較を行いました。つまり、2つのグループの違いは、応募者の将来の業績を予測する(優秀な人材を見分ける)際に、場当たり的な採用面接の結果が手元に情報としてあるかないかのみで、あとの条件はすべて同じだったということです。


その結果、予測の正確性が高かったのは、実は前者、すなわち知的能力と誠実性の得点だけで予測したグループだったのです。後者の、知的能力と誠実性と場当たり的な採用面接の得点を示したグループは、前者よりも予測の正確性が低いという結果になりました。しかし、後者のほうが前者よりも、業績予測への自信が高かったのです。後者のグループでは、採用面接の結果も情報として得られているがために、自信をもって応募者の将来業績を予測できた(すなわち優秀な人材を見極めれらた)と思ったのでしょうが、実は正反対だったというわけです。後者のグループの被験者は、場当たり的な面接の結果をより業績予測に反映していたので、その結果として、予測の正確性が低下してしまったのです。


この実験結果から何が言えるのでしょうか。Kauselらは、将来業績の予測に役立つ知的能力と誠実性といった情報に、将来業績の予測に役立たない場当たり的な採用面接の情報が加わった結果、被験者の業績予測の能力が錯乱されたのだと論じます。さらに、採用面接の得点を見たことにより「百聞は一見に如かず」というような「確信」が被験者の心の中に生まれ、それが、人材を見分けるという面において「過信」すなわち「自信過剰」な状態を作り出したのだと論じます。その結果、信頼できる知的能力や誠実性の得点を軽視し、科学的には信頼できない場当たり的な面接の結果を信用して業績予測に反映してしまったのだといえます。


今回のテーマとは少しずれますが、質問内容をあらかじめ構造化しない場当たり的な採用面接を行うことは、面接中にうっかり差別的な質問をしてしまうなど、多くの危険をはらんだ採用手段だと言えます。今回、それに加え、場当たり的な採用面接の結果を選考基準として用いようとすることが、科学的根拠のない「過信」を生み出すことで採用選考の正確性をも阻害してしまうという証拠を示したことにより、Kauselらの研究成果は、採用面接を行おうとする実務家に対して重要な示唆を与えるものだといえましょう。

参考文献

Kausel, E. E., Culbertson, S. S., & Madrid, H. P. (2016). Overconfidence in personnel selection: When and why unstructured interview information can hurt hiring decisions. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 137, 27-44.