リーダーの物理的な立ち位置に文化差はあるのか

リーダーやリーダーシップには、牽引するという意味合いがあるため、とりわけ西洋的な発想だと、リーダーとは集団の先頭に立ち、集団を率いる人だというイメージがあることでしょう。しかし、Menon, Sim,Fu, Chiu, & Hong (2010)は、アジアなどでは、集団を後方から見守ることこそがリーダーであるという見方もあることを指摘します。要するに、集団の前に立つのか後ろに立つのかの違いなのですが、なぜ、このようなリーダーの物理的な立ち位置のイメージに関する議論が重要なのかというと、フォロワーが持っている望ましいリーダーのイメージが重要だと暗黙的リーダーシップ理論(implicit leadership theory)が説くからです。つまり、リーダーの特徴や行動が、フォロワーが理想とするものと異なれば、そのリーダーはフォロワーから支持されず、よって、チームや組織を成功に導くことはできないと考えられるのです。


暗黙的リーダーシップ理論が示唆するのは、単にリーダーが集団の前に立つか後ろに立つかという表面的な違いのみが重要だというわけではありません。そこには、リーダーはどのような人物で、そのような行動をとるべきかという暗黙の前提が含まれている点が重要です。その点をふまえ、Menonらの議論を整理すると次のようになります。まず、アメリカに代表される西洋で典型的なリーダーのイメージは、権力をもって集団の先頭に立ち、集団が進むべき道を切り開いていくという姿勢ないしは行動です。しかし、集団の先頭に立つリーダーは、集団に背を向けているので、集団の様子がよく分かりません。これをどう解釈するかというと、リーダーは権力を持っているので、自らが道を切り開いて前進すれば、集団は後を着いてくるべきだと考えているだろうということが推察されます。


一方、アジアの人々の多くが持っていると思われるリーダーのイメージは、後方にたって集団を背後から見守るというものです。そこには、リーダーは、権力を持っているからこそ、集団全体に対して責任を持ち、集団の様子を注意深く観察すべきという考えが反映されていることが伺われます。アジアは西洋に比べると集団主義で、人間関係を重視する文化的背景を持っているため、集団の様子に気を使うリーダー、あるいは家族の父親として集団全体を見守るリーダーというイメージは不自然ではないでしょう。ただし、このようなリーダー像は、西洋のリーダー像のように道を切り開いていくという姿勢に欠けているともいえます。これは、西洋型の前に立つリーダーが、どちらかというと攻めのイメージなのに対して、アジア型の、後方にたって集団を見守るというのが、どちらかというと守りのイメージなのだとも考えられます。


上記のような議論を踏まえ、Menonらは、アメリカ(西洋)とシンガポール(アジア)のサンプルを使った複数の実験的研究を行い、リーダーの物理的な立ち位置の文化差についての実証研究を行いました。その結果、まず、アメリカの人々も、シンガポールの人々も、集団の先頭に立つリーダーというイメージのほうが強かったのですが、それでも、シンガポールの人々のほうが、集団の後ろに立つリーダーというイメージを持っている人の割合が多いことがわかりました。そして、アメリカの人々もシンガポールの人々も、集団の先頭に立つリーダーは、前進するための道を切り開いていく行動をとるリーダーだというイメージとリンクしていましたが、シンガポールの人々のほうが、後方に立つリーダーは、集団に対してよりフォーカスを当てているというイメージを持っていることがわかりました。さらに、シンガポールの人々のほうが、アメリカの人々よりも、後方に立つリーダーが効果的だと考える人の割合が多いことが分かりました。


このように、文化の違いによって、リーダーに対するイメージが異なる可能性が示唆されたわけですが、アメリカの人々のみを対象としたMenonの最後の実験では、チャンスが到来している、すなわち「攻め」の姿勢が求められるというように状況を認識された場合には、前方に立つリーダーが支持され、集団を脅かす脅威が迫っている、すなわち「守り」が必要だというように状況を認識させた場合には、後方に立つリーダーを指示する度合いが高まることも確認されました。すなわち、リーダーのイメージの文化差は、そのイメージの背後にあるロジックに原因があることが明らかになったといえましょう。

参考文献

Menon, T., Sim, J., Fu, J. H. Y., Chiu, C. Y., & Hong, Y. Y. (2010). Blazing the trail versus trailing the group: Culture and perceptions of the leader’s position. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 113(1), 51-61.