採用や就職活動でもっと内発的モティベーションを強調すべき理由

就職活動において、求職者は自分の長所をアピールしてよい就職先を勝ち取りたいことでしょう。同様に、採用活動において企業はいかに自社が魅力的な職場であるかをアピールして優秀な人材を獲得したいことでしょう。自分の長所を売り込む際の2大ポイントとしては「能力」と「モティベーション(やる気、動機づけ)」があります。今回は、その中でも「モティベーション」に焦点を当て、Woolley & Fishbach (2018)による興味深い研究を紹介します。


多くの方がご存知のとおり、モティベーションは、「外発的モティベーション」と「内発的モティベーション」に分けることができます。外発的モティベーションは、魅力的な外的報酬(賃金、昇進機会など)によって動機づけられることを示し、内発的モティベーションは、仕事自身が面白いなど、外発的報酬がなくても動機づけられることを示します。内発的モティベーションが高い人というのは、仕事自体に喜びを見出す、楽しんで仕事を行うといった特徴を示しますので、望ましい特徴であると思えます。しかし、Woolley & Fishbachは、求職者もリクルーターも、ともに、内発的モティベーションの重要性を過小評価し、自己や自社のアピールにあまり用いない傾向があることを理論的かつ実証的に示したのです。つまり、就職活動、採用活動の現実では、内発的モティベーションをもっと強調すればよい結果が得られるかもしれないのにもったいないことをしている人が多いということです。


Woolley & Fishbachが発見した原理をもう少し詳しく説明すると、「求職者もリクルーターも、相手が外発的モティベーションをどれくらい重視しているかは比較的正確に推定できるが、相手が内発的モティベーションをどれくらい重視しているかは正確に推定できず、得てして過小評価してしまう」というものです。ではなぜ、そのようなことが起こってしまうのでしょうか。それを理解する鍵は、「外発的モティベーションにおける外発的報酬は目に見えやすいが、内発的モティベーションにおける内的報酬は他者からは目に見えない」という点です。そのため、私たちは、自分が内発的モティベーションを重視している(例、仕事自体が面白いことを重視する)ほどには、他者は内発的モティベーションを重視していない(内的報酬には動機づけられてはいない)と思ってしまうという錯覚をしてしまうことが先行研究でも分かっているのです。


上記の理由から、求職者は、自分自身が内発的モティベーションを重視しているとしても、企業の採用担当者は自分が考えるほど内発的モティベーションを重視していないと考えるため、面接等について自分がいかに内発的モティベーションが高いか(仕事に喜びを感じる、楽しんで仕事をする)をアピールすることをしない傾向にあるとWoolley & Fishbachは予測しました。しかし現実には、採用担当者も自分自身は内発的モティベーションを重視しているはずなので、志願者の内発的モティベーションが高ければ、その志願者を魅力的に感じるはずなのです。


同じロジックが、採用活動を行う企業のリクルーターの心理にも当てはまります。リクルーターは、自分自身が内発的モティベーションを重視しているほどには、求職者は内発的モティベーションを重視していない(例、就職先選びにおいて仕事自体が面白いということを重視していない)と考えてしまうため、自社の長所をアピールする際に、内発的モティベーションに焦点をあてない傾向があるとWoolley & Fishbachは予測しました。しかし、これも同様に、求職者はリクルーターが思うよりもずっと内発的モチベーションを重視しているはずなので、リクルーターがもっと内発的モティベーション(例、当社の仕事は面白い)をアピールすれば、優秀な人材の獲得に資することができるはずなのです。


では、どうすれば、求職者にとってもリクルーターにとってもこのような「もったいない」現象を軽減することができるのでしょうか。Woolley & Fishbachは、他者視点取得(perspective taking)の重要性を指摘します。つまり、相手の立場にたって考えるという思考を実践すれば、相手も自分と同じくらい内発的モティベーションを重視していることを理解できるというわけです。


Woolley & Fishbachは5つの実験的研究を実施することによって上記の理論および予測を実証的に検討しました。最初の実験では、採用担当者も志願者も、外発的モティベーションが採用意思決定に与える重要性は同等に評価しましたが、採用担当者のほうが志願者よりも内発的モティベーションが採用意思決定に重要であると判断していることが分かりました。2つ目の実験では、志願者は内発的モティベーションを面接で強調することは採用担当者が考えるよりも得策ではないと考えていることが分かり、かつ、リクルーターは自社のアピールで内発的モティベーションを強調することが求職者が考えるよりも得策ではないと考えていることが分かりました。外発的モティベーションについてはそのような傾向は見られませんでした。


Woolley & Fishbachによる3つ目の実験では、志願者は採用担当者が内発的モティベーションを軽視していると判断しがちであり、それが面接において内発的モティベーションを強調しない理由になっていることが分かりました。外発的モティベーションについてはそのような傾向は見られませんでした。4つ目の実験では、採用担当者は、内発的モティベーションを強調する志願者に魅力を感じがちなのに対し、多くの志願者は内発的モティベーションを強調しない傾向にあることがわかりました。そして5つ目の実験では、志願者が採用担当者の立場にたって考えると、自己アピールにおいて内発的モティベーションをより強調することがわかりました。


以上の研究結果から、求職者も、企業のリクルーターも、自分たちが思う以上にもっと内発的モティベーションを自己(自社)アピールで強調するべきだということが言えそうです。求職者は「企業の採用担当者がどのような人材を魅力に思うのだろうか」といったように、リクルーターは「求職者がどのような企業を魅力的に感じるのだろうか」といったように、相手の立場にたって考えることが重要だといえます。

参考文献

Woolley, K., & Fishbach, A. (2018). Underestimating the importance of expressing intrinsic motivation in job interviews. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 148, 1-11.